第8話
「待て!! よくも騙したな!!」
「げっ。お前は…店の坊主!?」
「ノアは女だ! 坊主じゃない!! その赤毒蛇を返せ!!」
太ももにタックルするが、ヒョイッと避けられ、背後から蹴りを喰らい地面に倒れる。
「痛い…。で、でも絶対に返してもらう…」
お兄さんはポケットからナイフを取り出す。
「おい、ガキ。いい加減にしろ。殺すぞ?」
「こ、殺せるもんなら、殺してみろ!! ノアは…どっちみち…あの店を追い出されて…野垂れ死ぬんだ!!」
ナイフなんて怖くない!! ノアは再びお兄さんにタックルする。
「くっ、ガキが!!」
流石に使い魔ごときで殺人犯になりたくなかったのか、近づくノアを蹴りで追い払う。しかし、足にしがみついたノアは、思いっきり足に齧りついた。
「ぎゃぁぁぁぁっ! 巫山戯るなよ!!」
ノアの死角からナイフが首元を狙った。
「そこまでだ!!」
金属音が響く。剣でナイフを弾き飛ばされたナイフが地面に突き刺さる。
「坊主相手に…いや…女の子相手に、ナイフを出すなど…何を考えている!!!」
お兄さんの顔面に剣を突きつけた女の剣士に事情を説明すると、衛兵の詰め所まで犯人のお兄さんを連行してくれた。
衛兵に呼ばれたマーシャルさんは、ノアの顔を見るなり思い切りビンタした。
「馬鹿たれ!! 何危ない事しているんだよ!! 聞けば、この剣士さんが偶然通りかからなかったら…死んでいたかも知れないんだよ!? お前は…」
マーシャルさんは泣きながら、ノアを抱きしめた。
「ご、ごめんなさい…。ノア、追い出されると思って…」
「馬鹿だね。追い出すわけないじゃないか!! 金貨15枚分しっかりと働いてもらうだけだよ」
このお兄さんは、見習いが一人前になるこの季節を狙って、ノアと同じようにアチラコチラのいろいろな店で見習いを騙して儲けている常習犯だ。衛兵さんによれば、裁判によって、お兄さんは犯罪奴隷として鉱山送りになると言われた。
ノアを救ってくれた剣士のお姉さんは、エフェルフィーレさんという若くしてBランクにまでのし上がった商業都市サナーセルでも有名な冒険者さんだった。そして驚くことに、街の孤児院の出身者だった。
「エフェルフィーレさん。本当にありがとうございました」
「良いかいノア。勇気とは無駄に命を捨てることじゃない。命を守ることだ。何故ならば、命とはノア一人の命じゃないからだ。ノアの命は、育ててくれたシスターやマーシャルさんの命だと言って間違いない。わかるな?」
「うん…はい。この命はエフェルフィーレさんの命でもあるんですよね?」
「あぁ…。そうだぞ。困ったらいつでも相談に来い」
マーシャルさんの屋敷に帰ると、タムリンが腫れたほっぺたを指差す。タムリンは魔法で治すか聞いているのだと思う。でもノアは…痛いけど、怒られたのが嬉しくて、そのまま我慢することにした。




