第76話
「今回は、お前ら三人だけだ。どうだ? やってみるか?」酒臭いヴォルフが、ニヤニヤと笑う。何か企んでいる顔だ。
「あぁ! 任せろ!! 三人どころか、俺とレナータだけで十分だ! ノアなんかいらねぇ!」
身長の高い剣士のマルティンは、ノアを見下ろしながら言った。
「そうか。任せたぞ、マルティン」兄妹で十分と言うなら、ノアの出る幕はない。
「はぁっ!? お、おい…。ノア、待てよ…。こ、こういうときは…だな。マルティンこそ不要! ノ、ノア一人で十分だ!! とか…言うのが、マナーだろ?」
はぁ…。めんどくさ。何なんだよ。何がしたいのか…。男の子っって、よくわからない。
「まぁ、頑張って来い。マルティン」ペチッとマルティンの肩を叩く。
「ノア…。ごめんなさい。馬鹿なお兄ちゃんを許して…。機嫌直して、一緒に行こう?」
「依頼内容も知らないうちに、姉妹で十分とか言ってる馬鹿なんかと? 命が幾つあっても足らん」
ここぞとばかりにマルティンにとどめを刺しておく。
「悪かったよ。ノア。ちょっとテンション上がっただけだ。頼むから一緒に来てくれ」
長い前フリが終わり、依頼内容を確認する。『農村を荒らしている魔物たちの討伐と対策』?
「農村の規模が不明。被害状況も不明。対処の魔物も不明。魔物の大凡の数も不明。さらに対策って何だよ。胡散臭い、臭すぎるぞ?」
「出たよ。ノアの悪い癖だぞ。疑り深すぎる。魔物のことなんて、素人の村人には、わからないだろ?」
「でもお兄ちゃん。この依頼さ。人数とか期間も書いてないよ?」
三人は息ぴったりというように、ニヤニヤしているヴォルフを見た。
「何だ? やらないのか? うん? 俺は…どっちでも良いんだが…」
「よるよ! やるに決まってる。ノアとレナータがグチグチ言ってるだけだ」
「それじゃ。レナータが気が付いた通り、他の冒険者も参加する可能性があり、長期間の依頼になる可能性もある。準備はしっかりと整えていくか」
「おい、何で、ノアが仕切ってんだよ。お前、どうせ、他の冒険者と会話すらしないんだろ? 俺がリーダーやってやるから、大人しく参謀役に徹していればいいんだよ」
「はいはい。リーダーさん、仰せの通りに」
「お兄ちゃん。農村について、冒険者ギルドに問い合わせてみましょう。農村の位置や環境がわかれば、食料を森等で調達できるとか、持っていく必用があるか、判断できます。ついでに詳しい被害状況も聞いてみましょう」
冒険者ギルドに問い合わせた結果。複数パーティーによる討伐と村周辺に対魔物用の柵を作る依頼だとわかった。魔物の種類は、作物の種類ごとに狙ってくる魔物が異なる可能性ありとのこと。また
食事は村で用意してくれるが、それほど期待しないほうが良いとのこと。そして、出発は四日後、他のパーティーと合流して、冒険者ギルドが用意した馬車で農村に向かうことなっていた。勿論、護衛はなし。
「取り敢えず、携帯用保存食は、持って行くか」
「柵なんか作ったことないな。おい、リーダー。冒険者ギルドの有料講習に参加するか?」
「う〜ん…。実費だよな。約束だから聞かないが、ノアの報酬が出ないのがキツイ」
「うっ! そ、それは…返す言葉もない。なら、俺だけでも受けてくる。後で俺が、お前らに教えれば良い」
「私も実費で受けるわ。お兄ちゃんは、その他の準備をお願い。冒険者ギルドで馬車で持運び可能な量を聞いてから、いろいろ購入してね。買っても運べないとか最悪だからね」
「リーダー。それと、農村で作っている作物と、それを好き好んで狙う魔物について調べてくれ」
「おいおい。リーダー使いが荒いぞ!?」
ノア達は、ヴォルフの「依頼は準備で達成率が変わる」という教えをしっかり守って、行動を開始した。




