第71話
「おい、ブリジット。言い方ってもんがあるだろ。怖がらせてどうする?」
ノアの頬に涙が溢れだす。【特定】スキルを使った結果、ノアに悪意のある連中ばかりだったから。弱みを見せてはイケない場面なのに、恐怖のあまり…泣いてしまったのだ。
しかし、唯一と言っていい。目の前のダンディーなおじ様たちに迷惑をかけるわけにもいかない。事情を知らないにしても、ノアの手助けをした事をケルヒェンシュタイナー様たちが知れば、どんな罰を与えるかわからないからだ。
「め…迷惑をかけられません…」ノアは、はっきりと断る。
「馬鹿だね。店中に聞こえたんだよ。本当に…貴方は…襲われるよ? まだ…子供のままでいたいなら、私の言う通りにするんだよ」
本当のことを言えば、ノアは小さなことから両親に愛情を注がれずに育ってきた。
10歳の洗礼式を終えたノアが家を出たいと言い出したのも、両親から出て行けと言われたくな方から。つまり捨てられたと認めたくなかったから。
冒険者のレインさんが両親に頼まれて、『ムーンレイク使い魔店』まで様子を見に来たのも、マーシャルさんからの毎月の仕送りが心配だから。
ノアは愛情に飢えていた。常に悪意に晒されていた。だからマーシャルさんやタムリンの優しさに触れたとき、一生…このままでいたいと願った。頑張らないと捨てられると…二人を信じられなかった。だから…頑張ったんだけど…その結果が、頑張りすぎてしまったということ。
頑張れば頑張るほど、悪意のある人たちが寄って来る。もう嫌だった。怖かった。
世界は悪意に満ちている。それがノアの答えであり、この宿屋でも証明されてしまった。しかし、目の前にいるダンディーなおじ様たちは違う。マーシャルさんの様にとても清らかな心を持っていた。
だからこそ。迷惑をかけたくない。いつまでも、イチャついて…笑っていて欲しいと願った。
「おい、この子が泣いてんじゃねーか。お前ら悪い奴らだな。俺達に任せろよ」
「はははっ。そうだ、そうだ。たっぷりと可愛がってやるよ。顔は…そこそこだが、体がガキそのものだが…まぁ…挿れられればなんでもいいぜ」
「ぎゃはははっ!!! 鬼畜かよ!」
周囲が不穏な空気に包まれる。このままでは、ダンディーなおじ様たちに迷惑がかかる。
「い、行きます。部屋に行きましょう」
ノアは席を立ち、ダンディーなおじ様たちの腕を引っ張った。
「お、おいっ! 待てよ!!」
「お前たち!! 非番であるが俺たち衛兵の目の前で、少女に手を出すことは許さんぞ?」
「ひっ!? ちょ、ちょっと…からかった…だけですよ…」
そんなやり取りをする衛兵達の心にも悪意を感じていたノア。
駄目だ…。早く逃げないと…。
「と言う訳なのです。本当は話すことでヴォルフさんたちの命まで危険に晒すことになるのですが、関わってしまったので真実をお話しました。真実を知らなければ追手から逃げようがないですから。何度も言いますノアは領主様や国王様から狙われています。ですから今すぐに逃げてください。ノアも今から逃げます」
部屋で必死にヴォルフさんたちを説得するノア。
「しかし、まだ衛兵たちは、ノアの存在というか、領主や国王からお尋ね者として認識していないのだろ? 衛兵たちに悪意があるとすれば、権力を使ってノアをおもちゃにしようとしているだけだ。まぁ、逃げるに越したことはないがな」




