第70話
夕食の時間なのです。
銀溶液のペルペトゥア、白姫狐のカルメンシータ、灰刃狼のアウギュスタを部屋に残して、護衛として白浮霊のフェールケティルを連れて食堂に行こうとしたが、ノアが【隠密】スキルを使わないと隠れられないことに気付く。ペルペトゥアとアウギュスタを部屋に残して、カルメンシータとフェールケティルを【巣魔】スキルで封印?する。
食堂は冒険者たちでごった返しており、ノアはむさ苦しい中年冒険者たち…いいえ、ダンディーなおじ様たちと相席になる。おじ様たちは、重たそうな鎧のまま席に付いていた。ここに泊まっているかわからないけど、泊まっているとしたら、貴重品は肌身離さずなのだろう。
「お邪魔します」
「おう。可愛いお嬢ちゃんだな。お嬢ちゃんは一人か?」
「俺達の分も食って行け。どんどん喰って大きくなれよ! がははははっ!」
食べていいと言われても、夕食は宿代に付けているし、テーブルに並ぶのは酒の肴ばかりだ。マーシャルさんはあまりお酒を飲まないが、レレ村の両親は…貧しい生活の中でも沢山飲んでいたなぁ…と、懐かしいような苦いような過去に思いを馳せる。
「おまち。夕食のセットだ」
何かの肉が鉄板の上で音を立て、少々硬そうなパンと、見たことのない野菜が入った褐色の透明なスープが運ばれてきた。
ダンディーなおじ様たちは、お腹を空かせているであろうノアに気を使って、一通り食べ終わるまで話しかけてこなかった。それにしても、最安値の宿泊の割には、食事の質も量も満足の行くものだった。
「君は…家出なのかい?」
随分とストレートな質問だなぁ…。
何と答えようか困っていると、商業都市サナーセルでも有名な冒険者のエフェルフィーレさんと同じくらいの年齢の女性が、席に加わる。
「ヴォルフったら…私がいないからって、こんな小さな子をナンパするとか…」
「おいおい。勘弁してくれ。ブリジット。相席を頼まれて…その流れで…話しかけただけだ」
「お嬢ちゃん、こいつらはな。恋人同士なんだよ。まったく。毎度、いちゃつくのを見せつけられて困っているんだよ」
「とか言いながら、毎回楽しそうに見ているじゃねーか。コンラートよ」
「うるせぇぞ、ディーター! 俺だって…そのうち…」
仲良さそうなのは十分に伝わってきた。話も途絶えたし、また質問される前に部屋に戻ろうと、立ち上がる。
「あっ。待って。ちょっと…座って。話があるの」
イチャついていたブリジットさんが、ノアを呼び止めた。正直、大人のイチャついている姿など、恥ずかしくてみてられなかったのだ。
「貴方、一人でしょ? 野蛮な男どもに襲われたくなければ、私が一緒に部屋で寝てあげるわ」と、店中に聞こえる大声で言った。
「へっ!?」とノアは驚く。
「子供がね。こんな安宿で一人で寝泊まりしていたら、犯されて、誘拐されて、奴隷商人に売られてしまうわよ。だって、貴方…家出でしょ? 誰も貴方が居なくなっても気付かないし探してくれたりもしなわよ?」
心臓がバクバクと音を立てて鳴る。
【隠密】スキルと使い魔たちで、どうにか出来るかも知れなけど、今、この話を聞かなかったら、鍵の掛かる部屋にいる安心感から…【特定】スキルも使わなかったかも知れない。
だって…今だって…勝手に安心して【特定】スキルを使ってないのだから。