第7話
『ムーンレイク使い魔店』で働き始めて三週間が経った。まだまだ一人で接客は出来ないけど、魔物の世話には大分慣れてきて、ちょっとだけ自信が出て来た。
店のドアが開くと、冒険者風のお兄さんが入って来た。
「いらっしゃいませ。ムーンレイク使い魔店へようこそ」
「元気が良いな坊主。攻撃用の魔物で良いのはいるかい?」
「攻撃用ですか。でしたら赤毒蛇か…」
「それで」
「は、はい?」
「赤毒蛇で良い」
「他にも…」
「だから、それで良い。悪いが急いでいるんだ」
「し、失礼しました。では、刷り込みと従属の契約…」
「あぁっ。刷り込みだ。刷り込みでいい。これから長い旅に出るんだ。じっくり刷り込める。それに書類なんて書いている時間もない。もうすぐ乗り合いの馬車が出ちまう時間だ。で? こいつと…そこのケージで、金貨何枚だい?」
「えっと…。金貨14枚になります」
「なら、ほら、15枚だ。1枚は坊主。お前が取っておけ」
「あっ、ありがとうございます!!」
冒険者風のお兄さんは、嵐のように過ぎ去っていった。結局、坊主じゃないと訂正できなかった。
◆◇◇◇◇
「で、私を呼ばずに売っちまったために、このザマかい?」
休憩時間になって、マーシャルさんに報告した。褒められると思ったんだ。けど…実際はその逆。大説教中だ。何故なら支払われた金貨が偽物だから。
「うっ、す、すいませんでした…」
「泣いて許してもらえるのは洗礼式前の子供だけだよ」
正座して泣いているノアの頭をタムリンがヨシヨシと撫でてくれている。
「金貨15枚は大事件だよ。衛兵の詰め所で相談してくるから、ノアとタムリンは家で留守番だよ」
マーシャルさんが出ていった後、ノアは大声で泣いた。悔しくて、自分が情けないし、大切な魔物が奪われてしまった。
そんなノアにタムリンは二階を指差す。部屋で反省していろということらしい。
「店から追い出されちゃうかも…」
二階の窓から外を眺めていたら、タムリンが通りに向って走っていくのが見えた。
タムリン? 何かマーシャルさんに急用でもあるのだろうか? あっ。タムリンを見て気付く。ノアが探しに行かないと…。だって、ノアしか犯人見てないんだもん。
この街に引っ越してきて三週間のノアは、街の中を出歩いた経験の少ない。案の定ノアは、あっという間に迷子になった。それでも…あの冒険者のお兄さんを探さないと…責任感だけがノアを突き動かす。
しかし、そう簡単に見つかるはずもない。お兄さんの言う通り、馬車で街を出てしまったのかも知れないのだ。帰り道も理解らず、途方に暮れたノアは、街を流れる運河にかかる橋の上を歩いていた。
運気だけは中級のノア。騙されたことは運と言うよりも実力だが、お兄さんを見つけられたことは運の良さだろう。土手の上をケージを持って歩くお兄さんを見つけ走り出す。