第67話
喉の乾きと空腹に耐えて、たどり着いた街の食堂で、死ぬほど食べました。はい、10歳の女の子が一人で食べる姿は、滅茶苦茶目立つ。しかし、ケルヒェンシュタイナー様たちは、未だにノアが工業都市ヨレンテ内に潜伏していると思っているのか、【特定】スキルにも敵意や悪意を持つ者は見つかりませんでした。
支流が集まり大河ボイデンとなる始まりの街、その名もボイデン。大河を下り海へ繋がる河口まで大型の船舶で一気に移動できるため人気の街らしい。また河口側はアンブロス王国ですが、ヴェラー領地ではなくシーダ領地という別の領地になるみたいです。
という訳で、船舶の乗船券売り場に来ていて、看板に大まかな船旅の概要が書いてあるので読んでいます。
「船で10日ですか。なるほど移動距離と盗賊や魔物から襲われない事を考えれば、金貨13枚は安いのですかね? ノアには払えませんが…」
10日分の水と食料はかなりの量になる。ノア一人で持ち運べる量ではない。途中2箇所の街に停泊するならば、そこまでの水と食料で十分? いや、乗客の皆さんはどうするのかな?
「すいません。船の中での食事について聞きたいのですが?」
売り場のお姉さんに聞くと、親切に答えてくれました。購入した乗船券のランクによって、食堂が決まっているらしいのです。最低ランクの相部屋で雑魚寝の5等級ならば、食堂でなく売店だとのこと。しかも金貨13枚とは5等級のことでした!! お姉さんは、5等級を利用する場合は乗船券の盗難に気を付けるように注意してくれました。売店を利用するときも無賃乗船防止のため乗船券の確認が求められるらしいのです。
「ありがとう」と、無賃乗船するき満々のノアは、乾いた声を上げながら、お礼を言って乗船券売り場から離れた。
それから商店街でズタ袋を購入した後、保存食用のパンや干し肉、魔物の胃袋で出来た水筒を購入して、ズタ袋に詰め込み…【隠密】スキルのランクがCなので、【索敵】スキル等の【隠密】スキルを見破るスキル持ちでランクB保持者がいないことを祈りながら、停泊中の船舶に潜入する。
スキルランクBに到達する者のは、滅多にいないというタムリンの言葉通り、見破られることもなく乗船出来ました!!
しかし、ノアは船内で誰もいない場所を探すのに苦労する。船内の通路は狭く、そんな場所に座っていれば、誰かとぶつかってしまうし、雑魚寝用の部屋など以ての外でした。結局、通路の天井に銀溶液のペルペトゥアに頼んで、ハンモック状に擬態してもらい過ごすことになった。
「大丈夫ですか? 重たくないですか?」
何となく大丈夫と言っている気がしたけど、定期的に【回魔】でペルペトゥアの体力を回復する。
疲労のためか、予想外にハンモックの寝心地が良かったためか、ノアはいつの間にかぐっすりと寝てしまっていたのですが、出港の汽笛で驚いてガバッと起きてしまう。
目が覚めてしまうと、何もすることが無く、暇を持て余すノア。デッキに出て外の風景を楽しみたかったのですが、通路はごった返し状態で、【隠密】スキルを使用しながらの移動は危険だと判断して、ハンモックの上でぼーっと過ごす。
ノアは何もしていないと、何処まで逃げるか、逃げた先でどうするか、仕事はどうするか等、何も決まっていない不安で、心が押し潰されそうになる。うん、余計なことばかり考えてしまう。
楽ちんだったけど、まったく楽しめなかった船旅。そして停泊予定の街ポートリムで下船するノア。
「次、船が来るのは、5日後か…」




