第61話
「ノア様にはアクトン、ヒノデリカ様にはリスター、リオニーにはローガンが専属の護衛として付きます」とケルヒェンシュタイナー様が、休憩中に説明した。
「私に護衛は不要です」
「リオニー。君は、ノア様のご友人として護衛対象なのですよ?」
「むぅ。ならば、呼び捨てにしないでください!」
「ははっ。これは一本取られました。リオニー様」
ノアは見上げるほど背の高いアクトンに挨拶する。
「ア、アクトン様。よ、よろしくお願いします」
アクトンは突然話しかけられ驚くが、直ぐにその場で跪く。
「はっ! この命に代えましても必ずやお守りいたします」
騎士の行動に驚くノアに、ケルヒェンシュタイナー様が説明した。
「ノア様にも自覚して頂きたいのですが、現在、国賓級の扱いで領都に向かっています。正直言えば護衛の人数は足りていませんが、これは急を要するため時間との兼ね合いで申し訳なく存じます」
「そ、それは…白角馬の? 病気なのか怪我なのか知りませんが、そこまで期待されても困ります。せ、責任持てません…」
ケルヒェンシュタイナー様は一歩前に出る。
「ですから、国中から魔物に関する権威を持つ有識者を招集しているのです。国王様は藁にも縋る思いでノア様をお待ちかねなのです」
「よ、余計にプレッシャーが…」
「ニヒヒ。すげーなノア! 国王様からご指名だぞ!?」
ペシペシと肩を叩くヒノデリカ。他人事だと思って…。
◆◇◇◇◇
その後も旅は続く。
若いメイドさんはカミラのアドバイスの通り、お尻の痛さも、野営の大変さも、退屈な移動も、全部、楽しみに変えて、三人の少女は頑張った。
しかし、順調な旅はここまでだと言わんばかりに事件が起きた。
それは、領都ヴェラーまであと一歩の工業都市ヨレンテでのこと。
自分にではないが、【特定】スキルにより、強烈な殺意を感じ取った。
「サトゥルニナ・レーヴェンヒェルム…聖女様が、そこの路地裏で襲われています!!」
「今度は…聖女様か…。まったくノアは!!」
ノアの【特定】スキルにかかれば相手の職業程度ならば確認できてしまうのだ。
しかし、これはデジャブ。前も勝手に首を突っ込んで大変なことになったのに。
馬車を飛び出たリオニーは、専属の護衛ローガンを連れ、路地に駆け込む。カミラさんも、ケルヒェンシュタイナー様に事情を説明すると、3名の護衛にリオニーたちを追わせ、残りの護衛たちを馬車の護衛に回す。
後にノア・デモニウム・プリンセプスが語る三大苦難の一つが静かに幕を開けたのだ。