第59話
まさか、ヒノデリカのご両親が領都行きを許可するとは思えなかったので、どうやって説得したか聞き出していた。
「あのノアが絡んでいるのかと苦い顔で悩んだけど、危険があるから得るものも大きいと言ってたな。ただで領都に行けることと、領都の護衛がいるから安心ってのがあったんじゃないかな」
ケルヒェンシュタイナー様は、領都に向かうためお店の前まで、馬車で来ていた。そして、タムリンがいないままリオニーと二人で馬車に乗り込むと、ヴェラー様の手紙を見せて、ヒノデリカの鍛冶屋に立ち寄ってもらう。
初めて見るヒノデリカのお店は、小さな個人店ではなく、多くの従業員が働く大きな店舗であった。
職人街では滅多に見ることがない2台の豪華な二頭立て馬車と領都の護衛騎士が10名。それが突然店の前に横付けされ、従業員たちを驚かせてしまったのは、ノアも反省している。
「ニヒヒ。うちの店だけじゃなかったぞ? 職人街全体が何事かと大騒ぎだったじゃないか」
◆◇◇◇◇
そして、街を出てから数時間が経つ。馬車の中は、若いメイドさんとノアたちだけだ。馬車の中で無邪気におしゃべりをするノアとヒノデリカと違い、リオニーは難しそうな顔で黙っていた。原因はノアにある。【特定】スキルで護衛達を調べたのだが、あまり良い結果とは言えず、ついリオニーに教えてしまったためだ。
「ニヒヒ。俺な…。親父の一番弟子と…婚約したんだぞ」
「「はい?」」
黙っていたリオニーも驚きのあまり、ノアと一緒に声を上げた。
「独立して、店を持つんだけどな。商業都市サナーセルを離れ…領都でも良いかなとか思ってるんだ。うちの店の技術がどこまで領都で通じるか…それを見に行くために、ノアに付いて来たってのもあるんだ」
この国では結婚は12歳からだ。職人の男たちは12歳の子供を嫁に欲しがる傾向がある。まだ大人の体になっていない子供なのに、13歳で母親になるパターンのやつだ…。
「ヒノデリカ。おめでとう! でも…寂しくなるよ…」
ノアの言葉にリオニーも頷く。
「でも、商業都市サナーセルのお店は誰が継ぐの?」
「ニヒヒ。心配ない。俺は8人子供がいるからな」
「8人!?」
「うん。妾の子も入れると…15人だったかな?」
「凄い家庭だね…」
「ニヒヒ。それだけいても俺は親父に可愛がられているんだぞ」
レレ村の貧しい家族、異端審問官の家族、妾の居る平民の家族。家族もいろいろとあるんだね。
あっ。タムリンの家族の話は聞いたことがないな。う〜ん。教えてくれなさそうだな〜。
「ヒノデリカも沢山子供欲しいの?」
「ニヒヒ。そうだな。煩いぐらいが丁度いい。大きい店が必用だよな。領都って家賃高いのかな…」
「ヒノデリカ、ノア、お前たち勘違いしている。確かに今は領都に向かっているが、目的地は…王都だ」
はい? 確かにケルヒェンシュタイナー様は、国の象徴である白角馬の命がかかっているとか…言っていた気がするけど!?