第57話
何かを隠されているようで、ストレスが一杯になって倒れてしまったノア。ベッドで横たわるノアにタムリンが話しかけた。
(正直に言うわ。ノア、貴方は敵を作りすぎたの)
そんなこと言われても…。ノアが何をしたというのか?
(折角、【看破】スキルを手に入れたのだから、近寄る全ての人を調べなさい)
(嫌です。そんな…勝手に人の心を覗くようなマネ出来ません!!)
(脅すようなこと言ってしまうかも知れないけど、ノアに何かアレば…私は簡単に…街一つ塵芥に帰すようなことをしてしまうわ)
(駄目です…。ノアなんて、ただの平民です。ノアのためにそこまでしないでください)
(ノアもタムリン様も感情論に流されすぎです。【特定】スキルでノアに悪意のある人・魔道具や外のある仕掛けなどの物・魔物を特定して、見つけたものを【看破】スキルで調べれば良いじゃないですか? 害のあるものなら、ノアだって心が痛まないでしょ?)
(【看破】スキル発動!! あっ、本物のリオニーだ…)
(ちょっと!! ノア? 酷いじゃないですか!? 勝手に心を覗くのが嫌とか、今言ってましたよね?)
(だって…リオニーがまともなこと言ってるから、偽物かと思ったの…)
(あ、あのですね? そのリオニーはお馬鹿キャラっていう設定やめてもらえませんか?)
(ふふっ。スキルなんて使ってないよ。ありがとうね、リオニー、タムリンお姉ちゃん。いつも助けてもらってばかりだ…)
(面と向かって、恥ずかしいですわ…)
(ねぇ。私が敵を作りすぎたって…どういうこと?)
(同業者関連の妬み、保身のためノアを懐柔したい者達、能力に畏怖して排除したい者達、他国にノアを奪われる前に消したい者達、神々の存在を脅かす異端を排除しようとする者達、言い出したらキリがない。ノアの存在、ノアの可能性、それらに気が付き始めた人たち。それらは少なからずとも敵となり得るのだから…)
(そうだよ、ノア考えてもみて、常に暗殺の危険と隣り合わせの王様が、ノアの【特定】スキルを知ったらどうなると思う? ノアを常に身近に置いておけば、間者も暗殺者も裏切り者も全て把握できるし、食べ物にだって…遅延性の毒が入っていようと完璧に看破できちゃうんだよ? 世界を破滅さえる魔道具がある場所も、その操作方法だってノアなら…)
もう聞きたくない…。布団を頭までかぶるが、念話だということを忘れていた。しかしリオニーは、ノアが絶えられないと判断して念話を中断した。
商業都市サナーセルの小さな店『ムーンレイク使い魔店』で働く少女に悪意のある者達が近づいてきていることは、ノアも何となく理解っていた。ただそれを認めたくなかったのだ。
「【特定】スキル発動!!」
ノアのを中心に半径2,000mという途轍もない範囲を探知する。そこにはノアを意識する者、悪意のあるもの、畏怖する者などが…無数に…赤裸々に…見つかったのだ。
「嫌っ!! タムリンお姉ちゃん! 助けて!!」
布団から飛び出したノアは、タムリンにしがみつきブルブルと震える…。
(ノア…。驚くのも無理はない。しかし、私とリオニーがいる安心していい。それに…敵というのは、有名税みたいなものだ。【魔女】ランクBの私も、貴族であり異端審問官のリオニーも…少なからずそういう輩はいるのだ。注意して警戒して対処すれば良いだけだ)
タムリンは、ノアの頭をいい子いい子する。
しかし、ノアは何の覚悟もなかった平民の少女。
あまりの恐怖にベッドが濡れていた…。
(もう一度、お風呂に入ろう。リオニー悪いが後始末を頼む)
リオニーは、いつも明るく元気なノアを怯えさせる悪人共を片っ端から斬り捨ててやると心に誓いながら、ノアの仕出かした大洪水のベッドの後始末を始めるのであった。




