第55話
「うわっ! もふもっふ!! もふもっふですよ!! カルメンシータ!!」
お屋敷のソファーの上で、寝っ転がるノア。お腹の上には白姫狐のカルメンシータが、勘弁してくださいと言う表情で抱かれていた。
連日連夜、精魂尽きるまで【従属】スキルをカルメンシータに発動し続けた結果、【従属】スキルのランクがCになったためか、あまりのしつこさにプライドの高い白姫狐の心が折れたか、兎に角、従属に成功したのだ。
「ノ、ノア! 私にも触らさてくれ!!」
リオニーがカルメンシータに触ろうとすると、全身の毛を逆撫でてリオニーを威嚇する。
「駄目ですよ。リオニー。誇り高き白姫狐は、簡単に触れる魔物ではなのです」
「うっ…。狡いぞノア! 主ならば使い魔に触らせるように言ってくれ!」
「駄目です。使い魔であるが故に、いや使い魔だからこそ、使い魔を尊重しなければならないのです」
「嘘つけ…。ノアに触られて、嫌がっていたぞ…」
「そ、そんなことは…」
タムリンと、マーシャルさんの冷たい視線を感じて、ノアは反論を止めた。
「ご、ご飯の準備が出来たみたいですね」
リオニーも空気を読んで二人の待つダイニングテーブルの席にしれっと座った。
基本的に、異端審問官のリオニーは、仕事の話を口外できないため、話のネタは少ないのだが。
「あっ。セレス…セレスお姉様じゃない。ヴェラー様は本日街を発たれました」
あれから連日ヴェラー様は、ノアを勧誘しに来たのだが、その度にマーシャルさんに撃退されていたのだ。
「やっと静かになるねぇ」とマーシャルさんが呟く。
しかし、マーシャルさんは一体何者なの? 本人もタムリンもリオニーも教えてはくれない。
「あっ。忘れていたよ。ノア、明日は用事があるから、お店はお休みだよ」
「最近、お休み多いですよね…」
「誰の所為だと思ってるんだい?」
「ひっ! ごめんなさい…。あ、明日もノアが原因ですか?」
「明日は…………違う」
リアクション的に遠回しに言えばノアが原因かと申し訳なく思った。
「お休みなら…商業ギルドに行こうかな」
ノアが気軽に思いついたことを口にすると、「駄目です!!」とリオにーが強い口調で、言って来たため、びっくりして持っていたパンを落としてしまった。
「リ、リオニー…?」
「ご、ごめんなさい。ノア。行くなら私も一緒に行きます」
「えっ? リオニー何か商業ギルドに用事でもあるの?」
「ご、護衛です…」
「商業ギルドって、すぐ…そこなんだけど?」
「駄目です…護衛です。タムリンも行くと言っています」
「でも、リオニーは異端審問官の仕事があるんじゃ?」
「だから! 護衛です!!」
「わ、わかったから…怒らないでよ…。怖いよ、リオニー…」




