第53話
襲撃犯に襲われたあの日。
リオニーに、馬車から出て仲間がいる丘陵地帯へ逃げるように言われ、必死に走った先にいたのは、金髪にエメラルドの瞳の少女だった。
「あ、貴方が…リオニーの仲間?」
ここまでの命なのかと諦めかけたが、この少女だけでも逃してあげなければと思った。
しかし…。
「ノ、ノアは、領主様の娘であり、敬愛する『魔物大百科』の著者でもあるセレスティーヌ・ヴェラー様をお守りすると誓ったのです!!」
と、言って…襲撃犯に銀溶液を嗾けたのだ。
見ているだけで異常性がわかった。
従属するまでは難しいが、従属してしまえば、高度な命令を聞き分けられる白姫狐ならば、理解できるのだが…。
その銀溶液は、その少女の指示したタイミングで、指示した箇所に、指示した攻撃を実行したのだ…。
あり得ない…。そんな高度な要求を銀溶液が聞き分けられるなんて…。
私の実証実験では、銀溶液に攻撃をさせることは出来ても…それは…銀溶液の意志と言うより生存本能に近い、自己防衛にしか過ぎないと結論付けていたのだから。
イレギュラーな存在なのか? 進化した存在なのか? それとも別の個体なのか?
やがて襲撃犯の攻撃により、銀溶液が、ダメージを受け始める。
だが、銀溶液の主である少女は、「酷いことをしないで!! 【治魔】!! 【回魔】!!」と言ってスキルを発動した。
ポイントを消費してまで取る者がいないため滅多にお目にかかれないが、スキル自体は誰でも取得できるため珍しいものではない。しかし、そのスキルの効果と威力が尋常ではなかった。
一瞬にして、失われたペルペトゥアの体積が戻った!?
その後は、Bランク冒険者のエフェルフィーレ、タムリン、商業都市サナーセルの騎士団たちの活躍により、ご存知の通り事件は解決したのだが…。
そもそも私が商業都市サナーセルに来た理由。それは私の固有スキル【予見】によるものだ。
スキルを取得する際、【予見】のスキルスクロールに、何に関する予見が欲しいのかというキーワードを書き込む必用があった。勿論、『使い魔に関する事』と記した。
このの固有スキル【予見】により、知っての通り、私の研究は大いに捗る。
そして突然、『ただちに商業都市サナーセルへ旅立て』との予見があり、魔法都市ヴェラゼンを強引に旅立ったのだ。そして目の当たりにした異常な光景…。これが予見が見せたかったもの?
もしかして、銀溶液がレアなのではなく、この少女がレアなのでは?
周囲が襲撃犯の後始末で必死に働いている最中に申し訳ないと思ったが、私はノアという少女について、私専属の諜報員を使って調べさせた。
すると、出るわ出るわ…怪しげで楽しげな噂の数々。
もうノアを私の助手にするしかないじゃないですか!?