第52話
リオニーと一緒の生活は朝夕だけで、日中は何も変わらず店番をこなし、ノアは忙しい毎日を送っていた。
そんなある日の午後、地響きのような馬の蹄の音が聞こえてきたと思ったら、店の前で止まった。
「何か嫌な予感がします」とノアは一人呟く。
幸運な事に店内にはお客さんは誰も居なかった。
『護衛も付けずに行くことは成りません!!』
『前回、どのような目に遭ったかお忘れですか!!』
『ここはタムリンのいる店よ!』
『あのような魔女は信用なりません!!』
むかっ! タムリンお姉ちゃんを侮辱したな!! メラメラと怒りの炎が心に灯る。
『煩い!! これは命令です。ここで待機していなさい!!』
最近取り付けた可愛い音のドアベルが鳴ると、店内に入ってきたのは、領主の娘であるセレスティーヌ・ヴェラー様だった。
「いらっしゃいませ!? ヴ、ヴェラー様!?」
驚くノアに対して、「こんにちは、ノア。ヴェラーなんて他人行儀です。もう友人なのですから、私のことは、セレスと呼んでくださいませ」
「そ、そんなの無理です!! タ、タムリンお姉ちゃんに御用でしょうか!? す、直ぐに呼んできます!!」
カウンターから出たノアの腕をガシッと掴んだセレスティーヌは、ニッコリとノアを見て、「今日は、ノアに会いに来ました」と言った。
「ノ、ノアに!?」
「はい。それに…。あのときの銀溶液にも会いたくて」
「ペルペトゥアにですか…」
「はい。どうかしましたか?」
「いえ、少々お待ちください」
ノアが店の裏口から出ようとすると、ノアは腕をガシッとセレスティーヌに掴まれていることを思い出す。
「えっと…腕を離して頂けませんか?」
「いいえ。何故か、面白いことが起きそうな予感がするので離しません」
キラキラとした瞳でセレスティーヌに見つめられている…。
ノアは困っていた。セレスティーヌにペルペトゥア見せるためには、新たに覚えた【巣魔】スキルによってノアの作り出した巣に帰っているペルペトゥアを、【呼魔】スキルによって召喚する必用があるのだ。
【巣魔】スキルと【呼魔】スキルは、従属系スキルのカテゴリ一定数取得した上で、ある程度のランクを上げないと取得できない応用スキルの一つなのだ。
リオニーとタムリンお姉ちゃんに確認したところ、恐らくランクBやAと同様の希少性であり、人前で見せては駄目とキツく言われていた。
「あらあら…。ノア? 顔を真っ青にして、背中も汗でびっしょりね。どうしたのかしら?
ノアなら…理解ってもらえると信じているのよ。だって『魔物大百科』が好きなんでしょ? 魔物の探求が好きなんでしょ?
ノアには、『野生の魔物』と『従属された魔物』の相違点をまとめた著書である『従属大百科』を完成させるために執筆のお手伝いをして欲しいの…」




