第50話
灰針鼠を買ってくれた冒険者のマイリーお兄さん、白角兎を治癒したノインさん、【鉄壁】の固有スキル持ちのフェリオスさんからの口コミで、ジワジワと来店するお役様が増えてきたろころに、ライバル店のケーニッヒさんが、怪我や病気持ちの使い魔を持ち込むようになり、卸売市場でもノアの噂が加速的に広まる。
そこに、セレスティーヌ様襲撃事件で使い魔を使役して助けた噂や、カストプロポーズ事件が加わって、ノアをひと目見たいと来店する野次馬たちで、店はごった返していた。
勿論、それらは売上にも貢献していたため、マーシャルさんは黙認していた。
しかし、使い魔馬鹿のノアには、お客様を手玉に取るようなことは出来るはずもなく、純粋に使い魔を購入する者や治癒を求める者だけが、来店するようになったのも時間の問題であった。高飛車にならず真剣に使い魔の相談だけを受け付けていたノアの評価は更に上がった。
◆◇◇◇◇
セレスティーヌ様襲撃事件から三週間が経った昼のこと。ついにタムリンお姉ちゃんが帰ってきた。
「タ、タムリンお姉ちゃん!!!! おかえり!!!」
思い切り抱きついたため、タムリンお姉ちゃんは後ろに倒れそうになる。
(元気そうだね)
(うん! タムリンお姉ちゃんが助けてくれたからだよ)
(そ、そうか…)
あれ? タムリンお姉ちゃんに抱きつきながら背後をみると…。
「リオニー!?」
リオニーはコクリと頷くと、店内に入ってきた。その様子を見てマーシャルさんは、顔をしかめた。
「マーシャル様。ヴェラー領地の領主エドヴァルド・ヴェラー様からの要望です。タムリン様を異端審問官として復帰させる許可をご承諾いただきたく存じます」
タムリンお姉ちゃんは、異端審問官によって…。口を開こうとしたノアに対してリオニーは言った。
「ノア。あの当時の異端審問官の判断は何一つ間違ってはいない。私が異端審問官だからじゃない。悪魔の禁忌など成功するはずがない。もしも…あのまま行使していたら、タムリン様は存在しなかったかも知れないのよ」
「そんな…」
「それにタムリン様が犯されている永遠の呪いも、領地や国が協力し合って解呪出来るように支援していくことが約束されたの。タムリン様程の実力者をこのままにしおくのは国益を損なうのよ」
タムリンお姉ちゃんの言葉を思い出す。『Aなんて知れたら国から強制的に引き抜かれて永遠に自由を奪われるわ。それを目的で頑張る人もいるけど、BやAなんて…才能が合って死ぬ寸前でたどり着くランクよ!?』 と…。
でも今回のは…タムリンお姉ちゃんにかけられた呪いを解呪できるチャンスかも知れない…。
「タムリンが断らなかったんだ。私が断る理由もないが、親として条件を出す。半分だ。タムリンが優秀だからと言っても、呪いに犯されている。通常の異端審問官の仕事量の半分。住む場所が『ムーンレイク使い魔店』であるなら…考えてもいい」
「はい。マーシャル様ならば、そのように答えると思って、既にそのような条件で交渉を進めてきました」
「まったく…。奴らの考えそうなことだ。それで、お前さんは?」
「はい。私はタムリン様の従者です。可能であれば『ムーンレイク使い魔店』に住まわせて頂きたく…」
へっ? リオニーが一緒に住むの?




