第5話
「タムリン。ノアに部屋を教えてあげて。それと…服も」
食後のコーヒーを楽しむマーシャルがタムリンに言った。タムリンはコクリと頷き、ノアにオイデオイデと手で合図する。
ノアとタムリンの背丈は同じくらいだ。だけど、何となく年齢はタムリンの方が上のような気がする。
部屋は二階にあった。階段を上って一番近い部屋だ。部屋の案内と言っても、場所も近いし、部屋の中の家具もタンスとベッドと小さなテーブルと椅子だけだ。あっという間に終わってしまう。
タムリンはタンスを開けてオイデオイデする。その中を見ると、古着でいっぱいだった。タムリンは古着を指差した後、自分の胸を指差した。
うん? タムリンが着る? 違うよね…。
「タムリンが用意してくれたの?」
タムリンはニコリ笑ってコクリと頷く。
マジ…可愛い…。男の子だったら…この笑顔にやられていただろう。
タムリンは、タンスから服と下着を取り出す。
えっ!? 何故…ノアが下着を身に着けていないことを知っているの!? まさか…見られた!?
しばらくの沈黙。
「まさか…タムリンは、ノアが着替えるのを待っている?」
コクリと頷く。いやいや…。同い年くらいでも、他人に裸を見られるのは恥ずかしい。しかし、ノアがモジモジしていると、服に手をかけ脱がされてしまう。それは女の子同士でも完全にセクハラだ。
タムリンは脱がしたノアの服を持ち、ノアが着替えるのをジッと見つめていた。着替え終わると、またオイデオイデされて、マーシャルさんのいる居間に戻った。
「どうだい部屋は?」
「凄く嬉しい!! …です。夢にまで見た一人部屋です!! 実家では弟と一緒だったので」
「うん。そりゃ、よかった。午後は、商業ギルドに登録に行くからね」
「商業ギルドですか?」
「そうさ。ノアをこの街の商人として登録するんだよ」
◆◇◇◇◇
商業ギルドは『ムーンレイク使い魔店』から大通りに出てすぐの場所にあった。受付のお姉さんの指示に従い書類に名前などを記入して、マーシャルさんのサインを入れると簡単に登録できた。
ギルドカードは作成済みだが、この街の水晶に登録させるため手を乗せた。水晶には非公開にしてあったスキルが表示されてしまった。鑑定B、索敵Cという見習いにあるまじき熟練度のスキルランクを見た受付のお姉さんは驚くが、流石はプロフェッショナル。それ以上余計なことは言わないし聞かなかった。
「お忙しい中、マーシャル様ありがとうございます。無事、ノア様の登録が完了いたしました」
「そうかい、ご苦労さん。では行こうか」
「はい」
商業ギルドのドアを出るとき、受付のお姉さんへ振り返ると、まだジッと水晶を見つめていた。