第49話
「何度でも言うが、十分にやってくれているよ」
ノアの生きる世界のルールは、どこの国も一緒なのか知らないが、住み込み見習いになった時点で、その主側に親権などが譲渡されるのだ。
酷い言い方をすれば子供の売買である。
現にノアの生活をマーシャルが見ているし、月々のノアへの給料の2割程度が、ノアの両親の下へ送られるのだ。
レレ村を出たノアは二度と村の土を踏むことは許されない。厳しい世界なのだ。
「ありがとうございます! これからもがんばります!!」
「それで…ノアは、誰かを好きになったり、付き合ったりしたことはあるのかい?」
顔を真っ赤にしたノア。
「あ、ありません…」
「なんだい? 顔を赤くしたから…あるのかと思ったよ。まぎらわしい子だね…」
「すいません…。好きと言われたのも初めてです…」
「それで、カストはどうするんだい?」
「プロポーズは嬉しいのですが、ノアにはやりたいことが沢山あって…」
「休みの日ぐらいデートしても構わないんじゃないかい?」
「マ、マーシャルは、ノアに付き合って欲しいのですか!?」
「いや、付き合う男は慎重に選ばないとね。下手に付き合って別れてしまうと、ノアは一生結婚相手が見つからなくなってしまうし、いきなり孕まされても困る」
「は、はらっ!?」
あわあわと口をパクパクするノア。
「おっと、まだ早かったね。ごめんよ。まぁ、そういうこともあるさ。若いんだからね」
動揺したノアは、ティーポットからジャスミンティーをドバドバとティーカップに注ぎ溢れさせていた。
「これこれ。私が悪かったよ、落ち着いておくれ…」
「はっ! はひっ!?」
「まぁ。これでわかっただろ? ノアはちょっとした有名人なんだよ。手紙にも書いてある通り、稀に使い魔を治癒できる能力を持つ者はいるが、ノアは滅多にお目にかかれない程の技術の持ち主であり、これから稼ぎ頭になる可能性が高く、そこそこ容姿も良い、性格も悪くない。その上、純情そうで間違いなく処女だ。こんな女の子を放っておく男なんていやしないんだよ」
「マ、マーシャル!? 先程から…少々シモネタが多いです…」
「別に悪巫山戯で言っているわけじゃないよ。これが街でのノアへの評価だよ」
「ノ、ノア…。もう…街を歩けません…」
「そのぐらいで丁度いい。タムリンが帰ってくるまで、礼拝も学校も私が同伴するからね」
「はい…ありがとうございます。そ、それでカストさんには、どうやってお断りをすれば良いのでしょうか?」
「あぁ。ノアが拒否したとなると遺恨を残す。だから『ムーンレイク使い魔店』の看板娘に手を出されること困ると私から言っておくよ」
「ありがとうございます…」
◆◇◇◇◇
その夜、ギルドカードを見たノアは驚く、商人のランクが上がっていたのだ。商業都市サナーセルに来て八ヶ月のことであった。
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●名前:ノア(人間・女性10歳)
●職業:商人(ランク:F)、スキルポイント:8
○能力:体力F 筋力G 知力G 魔力G 運気E
○評価:商才F 人脈F 財力G 知識E 健康E
○習得:鑑定A 索敵A 従属F 暗視D 隠密D
念話C 検魔C 治魔E 回魔E 解魔G
○状態:正常
◎固有:拡張S 最適S 補正S
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