第46話
コクリ、コクリと取調べ中のノアは睡魔と戦う。重要性の低いノアやヒノデリカは順番的に最後に回され…今は、日付が変わるかどうかという時間であった。
現在マチアス・サナーセル子爵邸は、未曾有の大事件により、大混乱を極めていた。貴族も文官も騎士も昼間の様に休みもなく働く。
「ごめんよ。こんな夜遅くまで、だが…事が事だけに、早急に領主様へ報告しなければならないんだ」
取調官も自分がどれだけ酷いことをしているか認識があるようだ。
「で、帰りに偶然、セレスティーヌ・ヴェラー様の馬車が襲撃されているのを見て、助けに入った…」
「ち、違いますぅ…。ノア達は、馬車の中にいた人がセレスティーヌ・ヴェラー様だと知りませんでした。知ったのは、もう少し後です」
「では、どうやって知ったのかね?」
ノアの異常な【索敵】スキル等を隠すために、口裏を合わせる事を提案したタムリン。何かあれば、タムリンの魔法だ魔術だと言い張れと言われていた。
「タムリンの魔法です」
「そうか、そうだよな…。で、ノアは銀溶液を使役して、セレスティーヌ・ヴェラー様を襲撃犯から守ったと?」
膝の上で大人しくしているペルペトゥアを持ち上げる。
「ペルペトゥアです。この子の名前です。はい…。ペルペトゥアは強いのです。でも…倒したのは、エフェルフィーレさんです」
「ふむ、確かにノアは、エフェルフィーレ様の庇護下にあるらしいね…」
「人の首が目の前で、刎ねられたのです。目に焼き付いて…気持ち悪いです…」
「なるほど…。精神的ダメージを負ってしまったか。教会での治療を依頼しておこう」
「ありがとうございます…。ハッ!? お、お金は…ありませんよ!?」
「お金のことは心配ない。子爵様から支払っていただく」
「あ、ありがとうございます」
取調官は、それからも同じようなことを言葉を変えて質問する。何の意味があるのだろうか?
そんなんだから時間がかかるんだよと…イライラするが言うに言えない。
やっと取調室を出ると、ゲッソリとした表情のヒノデリカとばったり出会う。
「ヒノデリカ、大丈夫ですか?」
「ニヒヒ。取り敢えずは…な」
「ごめんね。変なことに巻き込んじゃって…」
「ニヒヒ。気にすんなって。俺、今回のことで色々勉強になったんだ。自分の足らない物に沢山気が付いたよ。おっと、親父が待ってるから、また教会? 学校? 次は教会だな。またな」
手を振って走り去るヒノデリカの背中を見つめていると、マーシャルさんが「こっちも帰ろうか」と声をかけてきた。
「はい。あの…マーシャルさん…」
「ヒノデリカって子も言っていただろ。気にすんなって」
「はい…」
「さて、帰るよ」
帰ると言ってもタムリンの姿が見えない。まだ取り調べを受けているのだろうか? やっぱり何でもタムリンに押し付けたのがいけなかったのか…。
「タ、タムリンは?」
「タムリンは、ヴェラー様からのたっての願いから、エフェルフィーレ様と一緒に護衛を引き受けることになってね」
「へっ?」
「どうやらノアを守る姿を見て、タムリンとエフェルフィーレ様は信用できると思ったらしいんだよ。元々タムリンとは、魔法都市ヴェラゼンの学園で同級生だったらしいし」
歩きながら銀溶液のペルペトゥアをマーシャルさんに紹介した。
「しかし、短期間でそこまで人間の言葉を理解する使い魔も珍しいね。幼体から使い魔にするメリットに意思疎通があるのだけれど、成体で…ねぇ…。珍しいね…」