第44話
(タムリンお姉ちゃん!?)
街道の反対側の森にいるタムリンまで念話は届かなかった。
そもそも、どうやってタムリンは、街道の向こうに敵がいるってわかったんだろう?
確か、Bランクの【索敵】スキルならば遮蔽物の有無に関わらず800m以内なら魔物の有無が、500m以内なら魔物の種別がわかるだったはずって…それどころじゃない!!
現実逃避から意識を戻す。
走って逃げる?
助けを呼ぶ?
それとも三人で戦う? 三人? ヒノデリカは…。
ヒノデリカはノアの足にしがみついて、ガクガクブルと震えている。
「ノ、ノアがどうにかするしか無い!?」
頭の上にいる、銀溶液のペルペトゥアが、が触手を作り、ツンツンと合図を送ってきた。
「ペルペトゥアに任せろって?」
ツンツンとノアの言葉を肯定しているみたいだった。
最弱の名声をほしいままにしている銀溶液が、襲撃するような人間に勝てるとは思えないが…。しかし、それは銀溶液が単独で戦った場合だ!!
ノアという司令塔がいるじゃないか!!
『魔物大百科』を空いた時間に何度も読んだ!! 決してサボっていたわけじゃない!!
掌に乗せたペルペトゥアを見つめながら言う。
「一度きりのチャンスだよ。ノアが良いって言うまで、胸の谷間に隠れているんだよ?」
ペルペトゥアは、恐る恐る触手で☓を作る。
「むかっ! あ、あるもん!! ノアにだって…す、少しなら…。うっ…。そんな目で見ないで…。ごめん、平らな胸に隠れてて…」ペルペトゥアに目は無いのだが、何かを感じた。
ペルペトゥアは、慰めるように体の大半を触手に変えて、ノアの頭をいいこいいこした。そして、涙目でノアは、ペルペトゥアに作戦を伝えたのだった。
やがて金髪に青い瞳の目鼻立ちのはっきりした小顔の女性が、息を切らせながら走って近づいてきた。
「あ、貴方が…リオニーの仲間?」
激しく落胆した表情だった。ここに来れば、タムリンが…強力な魔女がいるとリオニーに言われたのだろう。誰が見ても背後に忍び寄る襲撃犯を撃退できるように見えないのだから…。
「ノ、ノアの後ろに下がってくだ…しゃい」
「何を言っているの!? いくら領主の娘だからと言って、こんな小さな子を盾に出来るはずないでしょ!!」
「ノ、ノアは、領主様の娘であり、敬愛する『魔物大百科』の著者でもあるセレスティーヌ・ヴェラー様をお守りすると誓ったのです!!」
後数歩で間合いに入る所で襲撃犯は止まった。こんな女子供相手なら余裕だろうと思っているのか、顔が笑っていた。襲撃犯はゆっくりと剣先をノアに向けて言った。
「俺達は殺人鬼じゃない。怪我をしたくなければ、大人しくしていろ。そこの足にしがみつくガキも同じだ」
ノアは、フンッと鼻を鳴らした。
「今よ、ペルペトゥア!!」