第42話
救援要請が出て、挟み撃ちにされた襲撃犯は、防衛に徹する護衛達の陣形を崩すため、数の利を活かして乱戦になるように仕組んできた。
元々、6名の護衛も一つのパーティーではないため、乱戦になると連携が上手く取れない。それを認識した戦士のボニファーツは、どうにか馬車を死守するため、乱戦の最中に馬車へ近づこうとする。
6名の護衛の中に【索敵】スキルの保有者がいたようだ。「森側に敵反応多数!!」と叫ぶ。
森側の敵が合流すれば、壊滅させられるのは時間の問題だ。ここで護衛対象を殺されては、何のために戦っているのかもわからない。
馬車に辿り着いたボニファーツは、馬車を捨てて逃げるように中の人物に訴える。
しかし、6名の護衛でもない男から言われても、「はい、わかりました」などと馬車の扉を開閉してはもらえなかった。
その様子を見ていたリオニーは、「セレスティーヌ・ヴェラー! セレス! 私よ!! リオニー・シュルツよ!! 時間が無いの!! お願い出て来て!!」と叫ぶ。
「リオニー!? 本当にリオニーなの!?」
馬車の小窓からリオニーの顔を見たセレスティーヌは、馬車の扉を開けたのだが、その顔が笑顔から恐怖に変わる。
リオニーの背後に、襲撃犯が剣を大きく振りかぶって…まさにリオニーに叩きつけようとしていたのだ。
セレスティーヌの顔を見たリオニーは、背後を振り返る。近くにいたボニファーツも、目の前の敵を斬り伏せ、助けに入ろうとするが間に合わない。
リオニーの影から、黒影獣が出現して、襲撃犯の喉元に喰らいつく。黒影獣は、豹のようなフォルムだが、漆黒の影であり顔の表情などはない。
黒影獣は、タムリンから死の恐怖を植え付けられ怯えるリオニーに、父親のライカルが契約させた使い魔である。
「離れなさい!!」と黒影獣に命令したリオニーは、すぐさま【斬首】スキルを発動させ襲撃犯の首を刎ねた。
死のプレッシャーから解放されたリオニーは肩で息をする。
「ハァッ、ハァッ。 セレス聞いて。丘陵地帯…あそこに仲間がいるの。そこまで走って逃げて。時間がないの言う通りにして」
リオニーはノアがいる地点を指差す。そこにいけば最強の魔術師タムリンが…助けてくれると信じて。
ボニファーツは、乱戦の均衡が破られる寸前であることを認識していた。
「リオニー、追手が出たら二人で迎撃するぞ」
「はい。早く…逃げて」
「わ、わかった…。リオニーどうか無事で…」
「振り返らずに全力で走って!!」
セレスは丘陵地帯へ、リオニーは襲撃犯へ、向き直りお互い背を向ける。
リオニーの視界には、馬車の近くに倒れる護衛達の姿が映し出されていた。