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ノア・デモニウム・プリンセプス  作者: きっと小春
第一部 使い魔店の看板娘
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第41話

 商業都市サナーセルの管理運営をヴェラー領地の領主エドヴァルド・ヴェラから一任されているマチアス・サナーセル子爵の耳にも、タムリンの発動させた『ヴェラー家の紋章』と『救助要請の文字』の事は伝わっていたというより、騒ぎ立てる部下に付き合う形で見た大空に浮かぶソレを執務室から肉眼で捉えていた。


「アレが本物かどうかは問題ではない。都市直属の騎士団の半数を直ちに出撃させよ。都市襲撃を目論む敵による陽動作戦の可能性もある。各門へ残りの騎士団を配備せよ」


 まずは領主ヴェラ一家の救援要請に答えることが先決なのだ。


「これより商業都市サナーセルは、レベル3の防衛態勢に移行する」


 レベル3が紛争・厄災級の魔物の発生、レベル2が一定以上の組織による都市の襲撃、レベル3が政治的配慮・犯罪者の逃亡防止など出入制限、即時レベル2への即時移行を視野に入れた警戒態勢となる。


「次は、サナーセルへ来訪されるなど聞いていない。領都とヴェラ一家へ確認を急げ。あの魔術を発動させた者、襲撃している者と背後にいる組織の裏取り。また都市内にいる不審人物を襲撃犯として検挙することを許可する」


 伝令が走り去るのを確認すると、次の指示を出す。


「冒険者ギルドへ通達する内容だが、ランクC以上を襲撃地点の騎士の援護に向かわせろ。ランクD以下は、レベル3が解除されるまで、各門の護衛に当たらせろ。この時間では出払っているだろうがな…」


 ◆◇◇◇◇


 マチアス・サナーセル子爵邸は、商業都市サナーセルの中央に位置し、その佇まいは屋敷ではなく小さな砦であった。


 その子爵邸内に異端審問官達の執務室がある。その執務室からドアを隔てた個室にリオニーの父親である異端審問官長ディオンが事務処理に追われていた。


 人を異端として裁くのである。一つのミスも許されない。書類の隅々まで確認するため、精神的にも肉体的にも疲労は溜まる一方であった。


 椅子の背もたれに深く座り、眉間を右手で摘んだ。そのとき、ディオンの小指にはめていた小さな指輪の宝石が光る。


 ディオンは光る指輪を困惑した表情で見つめた。


 リオニーと契約させていた黒影獣(シャドウビースト)が目覚めた!?

 リオニーに何かあったのか!?


 ディオンは、リオニーが街の外で友人たちと遊ぶことを知っていたし、冒険者たちが護衛することも知っていた。街から遠くに行かないはずではなかったのか?


 机をドンッ!と拳で叩く。同時にドアがノックされ、返事もしていないのに伝令が入って来た。


「失礼します!! 現在、西門付近でヴェラ一家が何者かに襲撃されているとの連絡が入りました」


 ヴェラ一家? 西門? まさか…。


 ディオンの判断は素早かった。


「異端審問官たちを集めろ。直ちに西門へ向かう」


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