第40話
一気に丘陵地帯を駆け下りるリオニーは、冷静に両者の戦いを分析する。
一般の馬車!? 護衛も冒険者!?
セレスティーヌ…セレス…何してるのよ!!!
馬車を守る護衛たちが、下手に打って出ずに守りに徹している!? どういうこと? 援軍が来るのを待っているの? それとも相手の力量が上で戦いにならないの? でも…剣を交わした様子はない…。
【洗礼】スキルと【聖歌】スキルを発動する。この2つのスキルは、本来の使用目的とは異なるが、戦闘で使用すると、体力や知力などの能力値を一時的に上昇させる効果がある。
襲撃する側は20名は、誰一人として、こちらに気が付いていない。初手を取れる!! しかし、リオニーのスキルランクでは、一般人相手でも防御されれば、一撃で命を奪えない。
でも…やるしかない!!
【隠密】スキルも無く、走って近づけば、敵に見つかるのは当然だ。
最初に振り返った男に、【糾弾】スキルを発動する。このスキルは、対象者本人の自責の念を増長させる効果と、対象の周囲にヘイトを撒き散らし仲違いさせる効果がある。もっとランクが高ければ、対象者は精神的に自滅するか、周囲から攻撃を受けるのだ。
リオニーのスキルランクでは、多少混乱する程度だろう。
次に振り返った男には【聖火】スキルを発動させる。男の叫び声の原因がリオニーだと気付かれるが、リオニーは態勢を低く取り男たちの間をすり抜ける。
その際に、【斬首】スキルを発動する。偶然クリティカルヒットとなり、敵一人を絶命させた。そして、馬車の護衛と並び、「私は、異端審問官が一人、リオニー・シュルツ!! お前らの行いは領主への反逆であり、異端者として処罰される行為である!!」と宣言した。
◆◇◇◇◇
丘陵地帯を駆け下りる戦士のボニファーツは、リオニーの生存と馬車の状態を確認した。
「ライナー、ゲレオン。圧倒的にこっちが不利だ。遠距離で数名倒せるか?」
「敵がまとまってないし、馬車とリオニーたちに近すぎる。Dランクの魔術を連打して…2、3人ってところだ」
「この距離では、厳しいな…もっと近づかないと駄目だ」
リオニーの宣言により、敵の注意はリオニーに向かっていた。無防備な背後から、ゲレオンの魔術である『風の刃』により、斬撃と同レベルのダメージを受けた2名が倒れた。
「くっ! 背後から、また増援だ!! どうなってる!? 計画が漏れていたのか?」
襲撃側に動揺が走る。そこへライナーの矢が、また一人を絶命させた。
「残り16か…厳しいな…しかし、こちらは襲撃犯を挟み撃ち可能だ!!」
そこに、タムリンが発動させた『ヴェラー家の紋章』と『救助要請の文字』が、空に浮かぶことにより、背後にまだ増援部隊がいるとプレッシャーをかけることに成功するものの、『救援要請』の文字に…襲撃側が有利という安心感も与えてしまったが、やはり前後の挟み撃ちされた不利に顔をしかめる襲撃犯だった。
救援要請が出た時点で、ボニファーツは、時間を稼ぐ作戦に出る。下手に攻撃を仕掛けず、両者にらみ合いの状態に持ち込むが、街道を挟んだ森から、数度の爆発音が響く…。
「一体、どうなっていやがる!?」