第4話
覚えることだらけで、顔に余裕が無くなってきたのか、マーシャルさんがポンポンと頭を叩く。
「大丈夫。最初は失敗もばかりで落ち込むかも知れないが、真面目に頑張っているならば、追い出したりしないから頑張るんだよ」
「あ、ありがとう…じゃなかった。ありがとうございます…」
涙が出そうになるが、来て早々に泣くわけにもいかず、グッと堪える。
◆◇◇◇◇
ぐぅ〜っとお腹の鳴った。そういえば朝食も食べてなかったな…。
時間に煩い両親だったので、毎日決まった時間に昼食だったのだが、マーシャルに動く様子はなかった。このあとも待たされて、さらにそこから昼食を作り出したら一体何時になるのだろうか?
コンコンと裏口を叩く音がして、ゆっくりとドアが開く。
腰まである黒髪の赤い瞳の同い年くらいの少女が入って来た。
「あら、タムリン? 昼食の用意が出来たのかい?」
タムリンと呼ばれた少女は、コクリと頷く。
「ほら、ノア。外のプレートを準備中にして、白角兎を店内に入れな」
「う…、はい」
作業が終わったノアは、少女の姿を探すが何処にもいなかった。話したかったのに残念だ。マーシャルさんに連れられ屋敷に入ると、テーブルには食事が用意されていた。
マーシャルさんに促されて席に着くと、温かいスープをタムリンが運んできた。
「ありがとう」と言ったノアにコクリと頷く。
料理が揃ったのを見計らって、マーシャルさんがお祈りをする。ノアも真似することにした。家では食事中は黙っているルールだったし、マーシャルさんと食事するのは初めてだ。この家のマナーがわからないので黙って食べることにした。
「ノア、どうだい? 美味しいかい?」
「はい。美味しい。あっ、美味しいです。どれもしっかりと味が付いていますし、お肉も街で食べていたのと比べ物にならないほど柔らかいです」
「そうかい…。この料理は、全部タムリンが作ったんだよ」
タムリンを見ると、タムリンは恥ずかしそうに俯いた。
「あぁ。そうだね。この子の名前はタムリン。元々、魔法都市ヴェラゼンで学園に通うほどの優秀な魔女だったんだ。でもね、ある実験中に魔術が暴走して、声を失ってしまったんだよ。まぁ、いろいろあって、この家でメイドとして働くことになったんだよ。確か…ここまでは教えても良かったんだよね?」
タムリンは悲しそうな顔でコクリと頷く。
「えっと…」
「自己紹介は必要ないよ。もう話してある」
「何て説明したの? ですか…。 気になります」
「何って…紹介状に書いてあることぐらいだよ」
折角、タムリンと話せる機会だったのに…。残念だが仕方がない。