第39話
ここヴェラー領地を治めるエドヴァルド・ヴェラーの愛娘として有名なセレスティーヌ・ヴェラー。
実際に見たことはないが、月に一度お店に送付されてくる広報の端っこに掲載されている『魔物白書』という連載の著者でもあった。それを読むのはノアの月に一度の楽しみでもある。さらに言えば、ノアがお店で読んでいる『魔物大百科』は『魔物白書』をまとめた本なのだ。
セレスティーヌにもしものことがあったら…『魔物白書』が読めなくなる!?
焦った声でリオニーが戦士のボニファーツに告げる。
「ここからは、異端審問官として、職務を全うします。私の事は忘れてください」
リオニーは、タムリンと同じ巨大な死神の鎌を召喚すると、一気に丘陵地帯を駆け下りる。
「リオニー!!!」ノアの声はリオニーの心には届かない。
「ったく…。ノア、領主の娘ってのはマジなのか?」
ボニファーツが両肩をガッチリと掴んで睨むように聞いてきた。
「わ、わからないけど…。名前はセレスティーヌ・ヴェラーって…」
「【索敵】スキルか? この距離で名前まで…。そ、それより、セレスティーヌ・ヴェラー何て名前は二人といるはずがない。リオニーが先走ったのが痛い。あれで俺達が…領主の娘が襲われている事実を知った事を証明しちまった。つまり…領主の娘を見捨てて逃げたと知れたら、俺達は運が良くて反逆罪で鉱山送りだ…。悪いがタムリン。ノアとヒノデリカを守ってくれないか?」
タムリンはコクリと頷く。
戦士のボニファーツが剣を抜き天に掲げ「レイン、ライナー、ゲレオン。行くぞ!! 命あったら…また酒を飲もうぜ!!」と叫び突撃を開始した。
ポコリとタムリンに拳骨を食らった。
(強力なスキルは人前で使うなと言ったでしょ!! 貴方は…リオニーやレインさん達の命を危険に晒しているのよ!!)
(こんなことになるなんて思わなかった…)
(でも大丈夫…全員…生還させみせる!!)
タムリンは街の方角に両手を差し出し魔術を発動させる。
発動した魔術で描かれたのは大空に浮かんだ『ヴェラー家の紋章』と『救助要請の文字』だ。
例え悪戯でも冗談などでは済まない。重大な罪が着せられるのだ。つまり街の衛兵たちも、最速かつ全軍に近い戦力で、この場に駆け付けなければならない。
(5分…それまで持ち堪えさせる)
(タムリン、街道の反対の森から…沢山の人の反応が!?)
(救援信号を見た襲撃者の残り!?)
(ノア、ここで見つからないように、しゃがんでいて!!)
巨大な死神の鎌を召喚したタムリンは、シュッとその場から消えた。タムリンを【索敵】スキルで見るけるよりも早く、森の方から数度、爆音が聞こえた。
ヒノデリカは歯をガチガチと鳴らし涙目で震えている。
最初は馬車を助けようとしないボニファーツに落胆した。でも今は余計なことを言わなければよかったと後悔している。自分では何も出来ないくせに…。
「ノアは本当に自分勝手で愚かだ…」




