第37話
タムリンは、何もない空間から、テーブルと椅子を取り出す。そして続け様にテーブルの上に、湯気の立つスープ、焼きたての使い魔の肉料理、パン、低アルコール度数の蜂蜜酒やぶどう酒を慣れべていく。
「く、空間魔法じゃない!? これは時空間魔術!?」
驚く魔術師のゲレオンさんの背中をポンッと押して椅子に座らせるレインさん。
「ほら、せっかくの料理が冷めちゃうだろ? 勿体無いぞ」
「なだらかな丘陵地帯に場違いな8人掛けの大きなダイニングテーブルセット。さらに出来たての料理が並ぶか…。笑うしか無いな」
弓士のライナーさんも呆れ顔だ。
「料理のランクはDなので期待していたら、ごめんなさいとタムリンが言っていますが、ノアは十分に美味しと思います」
「そうだな。街に食堂と同等のレベルだろう。これ以上の料理は…リオニーの家で出るのかな?」
戦士のボニファーツが純粋に質問した。
「シュルツ家は貴族ですが、それ以前に異端審問官です。贅沢は好まないのですが、料理やお酒を嗜む程度の知識はあります。タムリンの料理は、素材を活かすために、驚くような手間ひまをかけて調理されています。そして、とても優しい味です」
なるほど、よくわからない…。貴族にも色々あるんだな。と思いながら、ヒノデリカに料理を取られまいと必死に口の中に詰め込むノアであった。
◆◇◇◇◇
昼食後、午後の計画について全員で意見を出し合う。ノアの提案は『無理せずに帰ろう』だった。
「銀溶液が2匹ですよ。十分過ぎる成果です」
「まぁ、確かに…冒険者は冒険するものだが、ノア達は商人だからな。よし、ゆっくりと帰るとするか」
戦士のボニファーツが帰還を宣言する。
昼食の片付けを始めたタムリンからお手伝い不要と言われ、冒険者たちの出発準備をガン見しているヒノデリカに無視され、残るは…リオニーかと思ったが、リオニーはタムリンと一緒にお手伝いをしていた!?
貴族なのにお手伝い!? タムリンもすんなりと受け入れている…。ちょっとした嫉妬心が、タムリンに対しても、リオニーに対しても、生まれる…。
お、大人気ないよねと思いながらも、気持ちが整理できず、一人不貞腐れる。
「いいよ。ノアには、銀溶液のペルペトゥアがいるし…」
銀溶液をツンツンと突っ突くと、小さな細い触手が伸びてきて、指をペチペチと叩き返してきた。
「わぁっ! 可愛い…」
怒ってるのかな? 嬉しいのかな?
「ニヒヒ。おっ! 可愛いな…。俺も欲しくなってきたぞ」
冒険者たちの準備が終わったのかヒノデリカが、しゃがんでいたノアの背中にもたれかかってきた。
そして、ヒノデリカの胸が、自然に背中に当たるのだが、意外に成長してることに驚き、秘かにライバル心を燃やすのであった。