第33話
『ムーンレイク使い魔店』の玄関先に冒険者とノア達の姿があった。
「私はレイン。聖騎士候補の選抜に落ちて冒険者をやっている。実力はお察しの通りだ。で、こっちのごついのは戦士のボニファーツ、細い方が弓士のライナー、じじぃっぽいのが魔術師のゲレオン。ノアは覚えているか? レレ村からの護衛で一緒だったはずだ」
「その節はおせわになりました」とペコリと頭を下げるノア。
『その節』というキーワードに反応したヒノデリカによって、銀溶液に捕食されそうになったノアの恥ずかしい過去が暴露された。顔を真っ赤にするノアだが、ヒノデリカのおかげで、冒険者との間の溝が埋まった気がした。
「ノアのお姉さんのタムリンです。タムリンは訳あって声が出せませんが、ノアと念話が出来ます。こっちの元気なのが鍛冶屋の娘のヒノデリカ。大人しいのが異端審問官のリオニーです」
「元気なのって…」
「大人しいって…」
「「「よろしくお願いします」」」と三人が言うと、タムリンはペコリと頭を下げた。
たまにの休みに無償で護衛してくれる冒険者など、何処を探してもいないだろう。レインさんたちには感謝しか無い。
二人のささやかな抗議を無視して、8名のパーティーは街の西門へ向かった。向かう途中で戦士のボニファーツさんから簡単な注意事項を受ける。
「まぁ、簡単に言えば、俺の前には出るなってことだな。あとは…最悪、リオニーがヒノデリカを、タムリンがノアを守り、さらにライナーとゲレオンが子供たちを守る陣形とする」
ボニファーツさんから役割を貰ったリオニーは「はい。お任せください」と少し興奮していた。
「ノアは街の外に出るの商業都市サナーセルに来てから初めてです」
「ニヒヒ。俺なんて生まれて初めてだ」
魔術師のゲレオンさんが、門番の詰め所で、出都申請の書類に記入をしている。これは魔物や盗賊たちに襲われた場合などの事故や事件を早期に判断するための処置だ。
そんな中でもヒノデリカは、門番たちの装備を観察したり、使い勝手や改善要望などを聞いていた。また真剣な顔でリオニーは、タムリンと小声で何かを話していたため、近付くことが出来なかった。
これから行く狩場にはどのような魔物が出没するのかレインさんに尋ねた。
「そうだな…。主に銀溶液や白角兎だ。たまに灰針鼠も見かけるぐらいだな」
「おぉっ!?」
つるぺたな胸の前でギュッと拳を握るノア。それは絶対に従属させるという決意の現れだ。
「従属させるためには、多少ダメージを与える必用があるらしいからな。くれぐれも前に出ないこと。手負いの魔物が何をしてくるかわからないからな」
「は、はい!」
「うん。いい返事だ」
まだ正門を開閉する定時よりも大分早かったので、小さな通用門から出る。視界には、なだらかな草原から徐々に丘陵地帯になる北側と、森が広がる南側が、街道を挟んで広がっていた。
「綺麗…」と女の子っぽいセリフのヒノデリカに、リオニーがクススと笑った。
「今日は丘陵地帯を目指すよ。全体的には上りだが、細かいアップダウンが続くから、疲れたら遠慮なく言ってくれ。疲れたままだと、いざというとき逃げられなくなるからな」




