第32話
(珍しい。ノアが自分から起きてきた…)
(へへっ…。昨晩は緊張しすぎて一睡もしてないの…)
(スリープ…)
(ぐぅ……)
寝れないのならば相談してくれればよいのにと、悔しがりながらノアを強制的に魔法で眠らせたタムリンは、本日の魔物捕獲のための昼食作りを再開した。食べ物の好みも食べる量もわからないので、多種多様な食材を使い、なるべく多くの料理を作る。
チラッとソファーにもたれ掛かり涎を垂れ流すノアを見る。
なんとも狂おしいほど可愛い。可愛いから頭を撫で撫でした。
「何をやってるんだい? それに…何て格好で寝ているんだろうね…この子は…」
マーシャルさんは、テーブルの上の料理などを見て、滞りなく準備をしていることを把握すると、タムリンに注意を促す。
「まぁ、あれだい。異端審問官のリオニーだけどね。安心だとは思うが、ノアと同じように見守ってやりな…」
タムリンはコクリと頷く。
マーシャルさんはリオニーが私と同じ道を辿ると心配しているのだろう。
◆◇◇◇◇
鋳塊を作成するための炉。その熱を操る技術が【炉熱】のスキルである。ランクはGだ。そのスキルを鍛えるためヒノデリカは休みの日でさえも高熱の炉の前にいた。
「ニヒヒ。今日は…このぐらいで勘弁してやるよ」
炉に向かい話しかけながら、筋肉質で健康的な小麦色の肌に弾かれた汗をタオルで拭う。
「二人に汗臭いと言われたら悲しいからな。ニヒヒ」
巨人とも思えるような大男が背後からヒノデリカを高い高いする。
「やめろよ。父ちゃん。もう子供じゃねー」
「ワハハ。だったら持ち上げられねーぐらい大きくなれ!! いいか、ヒノデリカ。お前は戦うスキルを何も持ってないんだ。冒険者たちの前に出るなよ」
「わかった。わかった。わかったから、降ろしてくれよ」
「しかし、やけに楽しそうだな」
「うん。仕事と同じくらい…一緒にいて楽しい奴らだ」
「そうか」
「じゃ、行ってくるよ!」
ノアの使い魔店は、街の市場の通り抜けた先にある。
「そう言えば、ノアの住む地区って初めて行くよな」と呟いていると、道端で両手を合わせて祈っているリオニーを見つけた。
は? 何してるんだ?
「おい。リオニー?」
ハッとした表情でこちらを見るリオニーの顔には、いつもの余裕がなかった。
「おい…。もしかして、魔物に会うのが怖くなったとかか?」
「な、何でもありません。それより…早く行きましょう。待ち合わせの時間に遅れそうですよ」
いや、そんなはずはないだろうと思ったが、今までリオニーに見られなかった人間くささを感じられ、少し親近感が湧いた。