第31話
次の礼拝のとき、リオニーが友達として接してくれるか心配だったノアは、タムリンに相談していた。
(だってノアは、タムリンお姉ちゃんやリオニーのように異端審問官みたいな難しい立場になったこと無いし…)
(また自分を卑下するノア病が発症したのね? ノアだってお客様の大切な使い魔の命を預かっているじゃない。もっと自信を持ちなさい。それにリオニーはノアを大切に思っているわ。ノアがリオニーを信じられないというのは、異端審問官の責務よりも友情を選んだリオニーに対して、とても失礼で許されることではないのよ?)
(そ、そうだよね…。ごめんリオニー…。タムリンお姉ちゃん、ありがとう!!)
そんな心配は、日曜日の朝の礼拝が終わりると、リオニーの方から話しかけて来てくれたことにより、杞憂に終わった。
「ノア。使い魔の治療ありがとうね。とても助かったわ。『前よりも元気!?』とか言ってたわよ。治療のおかげで…私のミスも帳消しになったわ」
「ニヒヒ? お前ら、何の話をしているんだ?」
「ノアにね。使い魔の治療を頼んだのよ」
「そりゃ…すげーな。ノアは見習いじゃないのかよ?」
「ランクGの見習い商人だよ、ただちょっと…治療が得意と言うか…成り行きでね。それよりも、二人は、両親の許可もらえたの?」
「ニヒヒ。魔物の捕獲だと、戦闘は無いかも知れないが、移動時の武器や防具の取り扱いとか、色々参考になることもあるし、そもそも冒険者と一緒に行動できる希少な体験だから、逆に行ってこいと言われたよ」
「私も同じかな。異端審問官は冒険者と行動することも多いから学んでこいって」
「やったぁぁ!! 凄い!! 三人で冒険に行けるんだ!? 楽しみ!!」
◆◇◇◇◇
夕食を終えたリオニーは、自室のベッドに倒れ込んだ。
この数日間、ずっと自分の全てが否定された気がしていた。異端審問官の責務より友人を選んだこと。誇り高き異端審問官に楯突く一般人などいないということ。楯突かれた崩れ去ったプライド。まだ見習いだが多くのスキルを所有し強くなったと浮かれていた自分の出鼻が挫かれたこと。タムリンに死を体感されられてから生きてる実感が持てないこと。タムリンの話が他人事に思えないこと。
異端審問官の仕事は非常に重要で難しい。
私情を持ち込むなと父親から何度も言われていた理由が今ならばわかる。
ノア。彼女に何か出逢わなければ…。それはさらなる自己否定。
初めて一人で行く子供だけの日曜日の朝の礼拝。そこで出逢った鍛冶屋の娘のヒノデリカと使い魔店のノア。驚くほど気軽に話しかけてきたどちらも貴族の自分に相応しい友人にはなれないと諦めていた。だが気さくな性格のヒノデリカとの会話は心地がよかった。
そんなとき、違和感が体を襲った。【異端】スキルが、ノアを異端だと明確に示した。それも今までに出会ったことのない…想像を超えた化物として…。
確かにノアに何かをされたのだが、体には異変がまったくなかった。
それからだ。ノア、ノア、ノア、ノア、ノア。目が覚めたとき、湯船に浸かるとき、空を見上げたとき、心の緊張感を解き放つと必ずノアの顔が思い浮かんだ。
やはり…あのとき、ノアに何かをされたんじゃないのか? 両親には内緒で必死に調べた。もしも…異端者に呪いをかけられていたら、私も処分されてしまうのだから…。
絶望と諦めの中、毎週ノアに教会で会う。しかし、ノアの様子は何も変わらない。
ある仕事帰りに立ち寄った図書館で偶然手に取った本。その中に…今の状況が【恋】だと記されていたのだ。
認めます。ノア、大好きです。誰よりも、仕事より、何よりも…。