第30話
風が店内に舞った。すると突然現れたタムリンが、燃えるよな怒りに満ちた赤い瞳で、殺害も辞さないとばかりに、巨大な死神の鎌の刃をリオニーの首元にピタリとつけた。
「ノアに殺意を向けるものは…誰であろうと許さないっ!!」
この眼は…不味い!! ノアはタムリンに訴える。
「駄目っ!! タムリン!! リオニーは友達なの!!」
「友達…? ノアに殺意を向ける者が…友達であるはずがない!! それに…異端審問官は信用ならない…」
真っ青な顔のリオニーは…死を覚悟した。いや、死を体験したのだ。
これが…死。ボロボロと大粒の涙が勝手に流れ落ちた。
「お願い…タムリン…。リオニーを許してあげて…」
そこに市場から帰ってきたマーシャルさんが登場して…。どうにかその場は収まった。
私は、マーシャルさんが見守り、リオニーとタムリンが俯くテーブルに温かい紅茶を出す。
「ノアもお座り。タムリンの妹であり、異端審問官のリオニーさんの友達ならば、ノアは…知る必用があるからね。タムリン、リオニーさん。これから話すことが…あなた達の理解と違っても、途中で話を遮らないでおくれ。訂正は後でゆっくりと聞き入れるからね」
二人は声にならない小さな声で返事をした。
話は、タムリンが魔法都市ヴェラゼンで学園に通っていた頃まで遡る。
若くして、【魔女】ランクB、【魔術】スキルのランクBという偉業を達成したタムリンに対して、魔法学会は【魔法】や【探求】の評価にBを惜しげもなく贈る。
そんなタムリンには各界から支援の要請が絶えなかった。それは異端審問官も同様であった。各界のあらゆる依頼を精力的に熟すタムリンには、次世代の王宮魔術師への道が開かれ始めた。
そんなとき…あの事件が起きてしまう。
タムリンの親友アルゼレーナが、不死の病に犯された弟を助けようとして、悪魔と契約してしまう。
それを知らずに、異端審問官からの要請で同事件を調査していたタムリンが、偶然に倒した邪教徒こそ、アルゼレーナだった。
死にゆくアルゼレーナの「弟を助けて」という最後の遺言が、タムリンの人生を変えてしまう。
周囲に持ち上げられ己での判断を怠った結果が、親友もその弟も殺してしまった…というショックから、当時最高峰の【魔術】スキルを保有していたタムリンは、悪魔だけが成し得る…禁忌の大魔術を弟のために発動させることを決意した。
しかし、異端審問官たちの介入により、禁忌の大魔術は暴走して…弟は結局助からず、タムリンも永遠の呪いに犯された。
王宮、学園、異端審問官たちの…政治的理由により事件は有耶無耶にされ、中でもタムリンに温情をかけたのが、当時の王太子妃でね。タムリンの功績により、タムリンは…処刑されずに、巡り巡って、マーシャルさんが預かる事になった。
そこまで語ったマーシャルさんは、一度、紅茶を口にして続けた。
「リオニーの放った殺気だけど…。ノアの力に対して反応した。つまり異端審問官として優秀な証拠だ。
そして、それは刹那。
つまり、後先考えない馬鹿なノアが、リオニーを信じていたかどうか知らないし、リオニーの素性を理解した上で発動したのかも知らないが、単純に困って泣いているリオニーを助けにたいと思ったんじゃないかい?
それを瞬時に感じた取ったリオニーは、ノアに勿体無いぐらいの友達思いの良い子だよ。
異端審問官の責務よりも友情を選んだのだろ?。
だから…タムリンも、そこで止めたんだろう?」
その後、リオニーはノアに深く謝罪した上で、あの力は人前で使わないことをノアに約束させた。それを見ていたタムリンも、リオニーとノアに謝罪し、一先ず? 事件は事なきを得た。