第3話
「じっくり見たい気持ちは理解るが今は仕事だよ。次の仕事は、この魔物を檻ごと店内に運ぶことだよ。まぁ、言わずもがな全部の檻は店内に入らない。つまり、店内にどの魔物を運ぶかセンスが問われるということだ。さて、どうやって選ぶと思う?」
突然の問に悩む。いつかは自分なりの考えを持って行動したいと思っていたけど、このタイミングで聞かれても、何も考えていなかったため答えを中々言い出せずにいた。
「えっと…。う、売れる魔物を優先的に?」
「そうね。売れる魔物だけじゃなくて、売りたい魔物も選択する必用があるわね。結論から言えばバランス良く。
季節ごとに売れる魔物は異なるの。春先の今なら新人の冒険者たちが自分たちの実力の低さに苦しみ考えた結果、使い魔を買いに来るパターンが多いわね。
それと店の実力もアピールする必用があるため目玉商品の魔物やレアで価値の高い魔物も店内のラインナップに加えたい。
そして店が売りたい魔物は、成体に近付いてしまった魔物ね。これは特売品としてのラインナップに加えるの」
なるほど。どんな魔物がいつ頃売れるかを考えるのか。魔物の厩舎には、姿形と名前さえ一致していない魔物も多い。覚えることが多いな…。
「魔物の名前を覚え、帳簿を見れば、ある程度の予測は付くと思う」
「そうね。まずはノアが店内に並べてみて。その後ラインナップやディスプレイについて教えることにするわ。何度も出し入れや並べ替えが発生するけど…力も付けないといけないから丁度良いわね」
「う、うん」
多分、慣れるまで毎日のように理不尽で理解できない並び替えや出し入れで大変だろうけど、ここで嫌な顔もせず頑張らないと…。でも…季節毎ってことは…最低でも一年はラインナップを覚えることが続くのかな…。
「今日は時間がないから。指示通りに檻を台車に乗せて。そうね…まずはそこの4つ。左から順番に、白角兎、黒夜蝙蝠、緑吊し上げ花、銀雨猫という名前よ。特徴は時間の開いた時に調べておいてね」
「うん」
どれも檻のサイズは小さいが鉄製のため、筋力Gのノアにはかなり重かった。
「魔物と接する時は、魔物の気持ちになること。自分だって、ゆっくり静かに運んで欲しいと思うでしょ?」
「うん…」
返事をするが、檻の重さで余裕がなかった。ゆっくり…静かに…丁寧に…。やっと1つの檻を台車に乗せることができた。
「いっぺんに運ばないでね。落としたり、魔物同士が威嚇し合ったり、良いことが一つもないからね」
白角兎は店の外に、黒夜蝙蝠は日陰に、緑吊し上げ花は窓際の日光の当たる場所に、銀雨猫は入って一番目立つ場所に置くように指示された。ギリギリ正解だったのは、黒夜蝙蝠を日陰に置いたことだけだ。
12匹の魔物を店内に運び、指定された場所にディスプレイすると、次の説明が始まった。
「店の営業時間の前後が、魔物たちを世話する時間になるの。営業時間中は店番ね。慣れなるまでの間は一緒に接客するけど。きちんと勉強してね」
「うん」
「確か読み書きは出来ると紹介状に書いてあったわね。まずは接客を学んで欲しい。接客には、話し方、態度、姿勢は勿論のこと。例えば、実際に魔物と戦う冒険者たちと会話する上で、魔物に関する知識は必用よ。それに冒険者たちの立ち回りも知っていなければ、良い魔物を紹介することも出来ない。覚えることは山ほど沢山あるわよ。そうね…まずはその村言葉を直さないといけないね」