第29話
厩舎を清掃するノア。しかし、その手は止まっており、白姫狐を眺めていた。
「君の寝顔を見ることが、未だに出来ていない…辛い…」
夜な夜な厩舎に忍び込むノアが原因で、過度のストレスを白姫狐に与えてしまっう。そのため白姫狐は体調不良となってしまった。またその原因を突き止めたのもノアであり、素直に原因を報告すると、マーシャルさんにこっ酷く怒られた。
「【暗視】スキル? 【隠密】スキル? ノアは馬鹿なのかい? 暗殺者や盗賊にでもなるつもりかい? 残スキルポイントが1? 何を考えているんだい!?」と、マーシャルさんの怒りは、ノアのスキルまでに及んでしまった。
厩舎での仕事を終えたノアは、いつものようにカウンターの内側で『魔物治療百例』を開く。
(ノア! 今日のお昼は何が食べたい?)
多分、掃除中であろうタムリンが献立の相談をしてきた。作る側は、献立を決めるのが一番大変だと言っていた。ここは協力しなければ!!
(………なるほど、難しいね…)
思いつくのだけれど、あれこれ考えすぎて、タムリンに遠慮して言い難い。
(もうっ! ノアは…相変わらずよね。念話のときは、頭で考えたことが漏れやすいのよ。特にノアの場合は、多分だけど…全部、筒抜け!! 遠慮なんてして欲しくないのよ。ノアの食べたい…ちょっと贅沢な魚介のパスタに決定ね)
(ごめんね。怒らないで)
(怒ってません。献立が決まったから、ご機嫌です!!)
「ノア!! 助けて!!」
突然、お店のドアが開く。そこには真っ赤な血に染まった白角兎を抱えた異端審問官の娘リオニーが涙目で立っていた。
「あの…仕事でね…わ、私の不注意…」
「そんなことより、白角兎をテーブルに!!」
【検魔】スキルを使い白角兎を診察すると、即【回魔】スキルを使う。
駄目だ…。出血が多すぎる…。
【回魔】スキルを勇者の【拡張】スキルで、上位スキルの【蘇魔】にする。
これなら…白角兎の体が、薄っすらと黄金色の光に包まれる。
「ノア? これは!? か、完全回復では!?」
光が収まると白角兎は、元気に店内を走り回る。治癒に驚くリオニーを更に驚かせたのも無理はない。リオニーの言う完全回復は、傷や病気を回復治療するだけで、失った血や体力までは回復できないのだ。つまり…瀕死の白角兎が治療後、直ぐに走り出すのは異常なのだ。
「ノア…貴方は…」
異端審問官としての責務を果たす…ならば、このノアの力は…異端者として…。いえ、こうなることを理解ってノアは、力を使ってくれた…。私を…信じてくれたんだ…。