第26話
さて今日は、どのような…お客様と魔物の出会いがあるのでしょうか! と、意気込んだ所でお客さんが来るわけでもない。カウンターの内側で、『魔物治療百例』を開く。
しかし、この『魔物治療百例』という本は本当に凄い。一種類の魔物に関して、複数の症例と具体的な治療方法など、本にまとめるまでにどれだけの時間と手間をかけたのだろうか? 著者は一流の冒険者なのだろうか?
そうこうしているうちにお客様が来て、青盾豚について幾つか質問を受けました。
「青盾豚の最大の特徴は、やはりタワーシールドと言われるぐらい強固な鼻です。
歴戦の戦士と同等と防御力を誇りますが、毒や冷気の攻撃には弱いので注意が必要です。また興奮してくると周囲が見えなくなるタイプなので、細かい指示を与えることが難しく、戦況には注意が必要です」
「ほう…。随分と勉強をしておるな…」
「いえ、まだまだです。今の説明は、本に書いてあったことなのです。ノアは実際に購入した冒険者たちの声をもっと聞いて勉強したいのです」
「君は魔物の治療も出来ると聞いているが?」
「えっ? あ、はい…。あまり…出来るとは言えないのです」
「それは何故かな?」
「経験が少なすぎて…治せると言い切れないのです」
「そうか…。だが、君の治療の腕前は、かなり有名のようだが?」
「えっ!? そ、そうなんですかっ!? こ、困ります!!」
「ケーニッヒ。うちのノアに何の用だ?」
奥から顔を出したマーシャルさんが、いきなりの喧嘩腰です!?
「いやぁ…。たまにはマーシャルの顔でも…」
「下手な嘘をつかないでおくれ! 大方、ノアの評判を聞きつけて、ヘッドハンティングにでも来たんだろ?」
「はははっ。当たりだ」
ヘッドハンティング!? ノ、ノアを!? そう言えば、ケーニッヒさんって、冒険者には見えないし…着ている服は…商人というより、貴族っぽい? お金持ちそうだな…。
「どうだろうノア。私の店に来ないか? 私の店は、この店の倍以上の魔物がいる。そして、ノアには魔物を研究する時間をたっぷりと用意しよう。うん、給与もこの店の2倍出すぞ? どうだ?」
へっ? 何ですか…その待遇の良さは…。でも…。
「私がいる前で、堂々とよく言えたもんだよ…」呆れ果てた顔のマーシャルさん。
「お断りします」
「何故だ? マーシャルに対する義理立てか? それとも金のことか? それならば気にすることはない。違約金だろうと移籍金だろうと幾らでも出す」
「お金の問題ではありません。ここ…。『ムーンレイク使い魔店』でしか学べないことも沢山あるのです!」
「な、何を言っているっ!? 大は小を兼ねる。うちの店で学べないことなど無いぞ? 君は世の中を知らなすぎる。もっと広い目で世界を見るべきだ。商人とはそういうものだ」
「確かにケーニッヒさんの言う通りかも知れません。ですが、ここで学んだからこそ、ケーニッヒさんの目に留まる実力がついたのです」
「だ、だからこそだ。それ以上の実力を…」
「それに…ノアは、『ムーンレイク使い魔店』の看板娘です。何処にも行きません!!」
黙って聞いていたマーシャルさんは、嬉しそうに微笑んだ。
「さぁ、話はついたよ、ケーニッヒ。営業の邪魔だ帰ってくれ」
「ば、馬鹿な? ノア! 君は間違っている!! 才能の無駄遣いだ!!」
「お、お客様でないなら、お帰りください…」
ノアは、ケーニッヒさんの背中を押して、店の外に追い出す。
「わ、わかった! ノア。君と争うつもりはない。今日は帰る。だが…君の人生だ。焦らず、じっくりと考えてくれ。私はいつでも待っているから…」




