第25話
「この子は何ですか!?」
毛糸玉のような魔物。【鑑定】スキルやら【検魔】スキルを使ってみる。
「桃毛玉っていうの? 君は…どんな魔物なの?」
触りたいけど、触ると怒られるので、ジッと見つめていたら、ピョン、ピョン、ピョンと、全身をバネのようにして跳ねる。ぐっ。可愛い…。何と言うあざとい魔物だ…。
「まぁ、観賞用の魔物だからね。可愛いだけが取り柄さ」
マーシャルさんはニッコリと笑う。
「それはそうと、日曜日の朝の礼拝…もう3回ぐらい行ってるだろ? どんな感じだい?」
「最初に友達になった鍛冶屋の娘のヒノデリカと異端審問官の娘リオニー以外は…まだ友達が増えていません…。いつも二人と遊んでしまうので…」
「あぁ…。無理に作る必要はない。ノアが楽しければいいさ」
「は、はい!! ふ、二人は…ちょっと怖いけど…大好きです!」
「そうかい。良かったよ。それでね…」
マーシャルさんは、商談用のテーブルに一枚の紙を置く。
「商業都市立サナーセル商業学校…入学願書? えっ…。ノ、ノアが…学校に!?」
「そうさ。何が願書だよ、入りたいなんて一言も言っていないし、強制のくせにね…。まぁ、日曜日の朝の礼拝が思いの外上手くいったようだからね…。味を占めた上の連中が考えたことさ」
「で、で、で、でもですよっ!? ノアは働くために商業都市サナーセルに来たのです!! 働いているから、この『ムーンレイク使い魔店』にいられるのです! その人たちは…何を考えているのですか!!」
「ノアは字の読み書きも計算も出来る優秀な子だけど、他の子供たちは、そうはいかないんだよ。急速に成長している商業都市サナーセルは、多方面から注目を集めてるからね。教育にも力を入れたいんだよ」
マーシャルさんに褒められた!! う、嬉しい。嬉しいけど!?
「で、でも…」
「街からノアが学校に通っている時間帯の給与分は支給されるし、店にもノアの1/3分入るから…あっ。これは他人に言っては駄目だよ? もしかしたら、店側が全部取ってしまう店もあるかも知れないからね。それと、学校は毎週、火曜日と木曜日の午前中だけだ」
「は、はい…。ほ、本当に良いのでしょうか?」
「なし崩し的に、アフターケア…いや、他店での購入者もか…。ノアの魔物治療目当てで来店して来る客も増えたからかね。治療でも売上が上がってるし…今やノアは『ムーンレイク使い魔店』の看板娘だよ。礼拝と学校で週3日になるけど、それぐらいなら問題はないよ」
「ありがとうございます…」
「ほらほら、願書に名前を書いておくれ…。あっ、それにね、強制だから…日曜日の朝の礼拝の友達も来るよ?」
記入していた手がピタリと止まる。
「ヒノデリカとリオニーも!? ちょっと…嬉しいかも…学校楽しみ!!」
「全く、現金な娘だね…」
「あぅ…すいません…」
◆◇◇◇◇
一日の仕事が終わりパジャマに着替えると、ベッドの上にダイブして抱き枕に抱きつく。
「今やノアは『ムーンレイク使い魔店』の看板娘だよ」とマーシャルさんの声をマネて言ってみる。
「ふふっ」と笑い声が漏れてしまう。少しずつだけど、マーシャルさんに認められ始めて、魔物の知識も多少増えて、タムリンというお姉さんに友達も出来た。毎日が楽しくて仕方がないよ…。と充実した毎日を過ごすノアであった。