第242話
ノアはここまでかと諦めの表情であった。マーシャルさんには悪いが…。もう…。
「結界!? 我がその程度で止まるとでも!?」
!? セレスも二人のタムリンも…感じたであろう。大陸中に大量の魔物が召喚されたのだ。
「フフッ!! ハハハッ!! どうする? 如何に貴様らの戦闘力が高くても…全ての国…いや、街や村は救えんぞ?」
「それがどうしたというのですか? 私達は貴方と戦っているのですよ?」
こいつら…邪神よりもたちが悪い。人間界を巻き込むなと…。ノアは怒りで気が狂いそうだった。ノアはリオニーの世界の叡智の杖を奪い、世界の理から外れた世界へ全員を引きずり込む。
そして、ノアは宣言する。
「この方法で、納得できないのであれば、全員を消滅させます」
ノアはタムリンよりも遥かに位の高い邪神であり、ノアが…人であることを諦めれば、邪神に生まれ変われるのだが…。
もしかして…創造神は…これを狙っている!? ノアは創造神の掌の上で遊ばれている事に気付く。ならば…是が非でも成功させなければ…。
「良いですか? ジュディッタとリオニーは、リーダーの中に芽生えた悪意が許せないのですね?」
「その通りだ」
「兄妹とも思われなくない」
「ぐっ! 貴様ら!!」
「少しだけ黙ってて!! そこで、ノアは…リーダーの悪意をノアに封じ込め、代わりに…ノアの心臓で眠る…タムリンの欠片である月妖精をリーダーと融合させます。それで純真なるタムリンが生まれるのです」
ノアは魔王スキルである勇者スキルのまま保持できる心を持ち、悪意を受け入れる邪神の力もある。最悪、邪神となった場合には、この世界から去ってしまえば良いのだ。
「そして、三人のタムリンは…天界に帰ってください」
本当ならば、ジュディッタとリオニーの体を返して欲しかった。しかし、タムリンの意思ではない、本人の意思に尋ねたところ、そのまま天界に行くと言い切ったのだ。では、リーダーに乗っ取られたリリアナは? というと、同様の答えだった。
タムリンの何にそれほど惹かれるの? 不思議でならない。だが紛れもない本人の意思であり、ノアにそれを止める権利はない。
ノアはリーダーの胸に手を当てる。そして、眠っている月妖精を覚醒させ、リーダーの悪意と入れ替わるように伝えた。
「今までありがとう。月妖精…。貴方のおかげで生き返ることが出来たわ」
月妖精の代わりに入ってきた悪意は…本当に小さな子どもの悪戯程度を引き起こす悪意であった。こんな小さな悪意のために、何万人が苦しんだことか…。
「さて、世界の叡智の杖で、三人を天界に送ります。そして、この世界と切り離します」
ノアにも不思議だった。あれだけ想い助けようとしていたジュディッタ、リオニー、リリアナとの別れなのに、何故か…居なくなることに、ほっとしてしまっていたのだ。
これで良かったのかしら? これが正解なの? 理解らない…。




