第２３８話
それは数秒にも満たない刹那の攻防だった。
思惑が外れたリーダーは、目の前に迫る二体の魔物と裏切り者のディオン・シュルツを天秤にかけ、裏切り者を先に殺すことにした。
振り下ろされる異端審問官の鎌を、間合いを詰めたことで左肩に受け、ディオン・シュルツの顔面を右手で鷲掴みにする。
灰狼侍・改のアウギュスタの一太刀はリーダーの左手を切断したが、リーダーの右手から放たれる黒い炎がディオン・シュルツを包み込んだ。
鋼巨兵のラヴレーンチェフは、リーダーの両腕を掴み持ち上げる。しかし、リーダーは自由な右足を振り上げると、ラヴレーンチェフは、真っ二つに切り裂かれる。だがラヴレーンチェフにも意地があった。切断されても掴んだ両腕は決して離さなかった。
ラヴレーンチェフの重さに耐えられず、リーダーの腕が引き千切れた。
「今よ！！ リオニー！！」
セレスティーヌ・ヴェラーは決して、リーダーから目を離さなかった。しかし、数秒待つがリオニーからの攻撃はない。リオニーに視線を向けると、小さな女の子がマーシャルの腹部をナイフで刺していて…リオニーはそれに釘付けとなっていた。
「リオニー！！」セレスティーヌ・ヴェラーは、ありったけの声で叫ぶ。が、おかしなことに地面が逆さまに見えた。おかしい…。自分はまだ…そこに立っているではないですか？
両腕を失ったリーダーの斬撃を放つ蹴りで首を刎ねられていたのだ。
アウギュスタは…？ カルメンシータと猫亜人と戦っていた…恐らく…支配されてしまったのだろう…。完敗ね…。そして、セレスティーヌ・ヴェラーの意識は途絶えた。
「リオニー…リーダーを…」マーシャルさんの声で、リオニーは現実に引き戻される。しかし、振り返るとリーダーは、もう目の前まで！？ 両腕を失っても優雅に…笑いながら近づいてくる。
左手の世界の叡智の杖には十分な魔力が注ぎ込まれているが、魔法を発動させる間に…殺されているだろう…。
負けた…。
「妹よ。そう悲しそうな顔をするではない。我が悪者のようではないか？ すぐに…姉妹に会わせてやる」
リオニーとリーダーの間の空間が歪み、セレスティノ・ヘルメスベルガーとノアが姿を現した。
「リオニー！！」
「英雄スキルを返してもらうぞ」
セレスティノ・ヘルメスベルガーは、ありったけのスキルを発動させ、リーダーを圧倒する。
ノアは、使い魔達の支配を解き、ラヴレーンチェフを【蘇魔】スキルで蘇生を試みる。そして、周囲を見渡すと、マーシャルさんが…リリアナを抱いて！？ 血が！？
なんてことだ。マーシャルさんが…刺されている！？
リリアナが、マーシャルさんから離れると、返り血を浴びて真っ赤に染まる自分の両手を見て驚いている。しかも、リリアナがマーシャルさんを刺した事に怯えているジュディッタには…天から力が注がれている。タムリンの力が…。
一体、何がどーなって、こんな状況に！？ ノアの思考は空回りしていた…。
