第234話
ノアの周囲を囲んだ砂塵が、内側に砂で刃を作り出し回転を始めた。ノアは胸を貫かれたセレスを抱えながら、【結界】スキルの上位である【神界】スキルを展開させる。
パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!
【神界】スキルで作られた結界に銃弾は全て弾かれるが…銃? ヒガシヤマさんの世界の武器…。これでセレスの胸は撃ち抜かれたのか。
ノアはセレスの傷口を塞ぐため【治癒】スキルの上位である【完治】スキルを発動させるが…。傷が治らない!? どういうこと!?
【特定】スキルを使い治癒を邪魔している要素を調べる。ノアがいる場所に強力な領域が展開されている!? 【転位】などの空間魔法やスキル、【治療】などの治癒スキルが無効化されており、さらに銃弾には呪術が施されており、治療には【解呪】と【治癒】を同時に発動させないと、セレスの傷は治らない…。
なんてことだ…。ヴァルプルギスの夜会の実力を舐めていた…。聖女サトゥルニナ・レーヴェンヒェルムに工業都市ヨレンテ付近に転移したところ、いきなり襲われたのだ。しかも、ノアが出会ったことのない…ヴァルプルギスの夜会のメンバーに。
【特定】スキルの範囲を広げようとすると、敵の領域に阻害されてしまう!? 【特定】スキルは上位のスキルだ。それに干渉してくるとは…。
この砂塵を操る者、銃器を使う者、領域を展開している者、最低でも三人いるのか? それとも一人で…ノア達を相手にしているのか?
灰狼侍・改のアウギュスタを呼ぶことも考えたが、もしも、リリアナ達が同時に襲われていた場合に、まだこの世界で力に慣れていないリオニーでは不安が残る…。
あっ。そもそも…空間系スキルが無効化されているなら…【呼魔】スキルも無効!?
ふっ。『強くてニューゲーム』のノアをここまで追い詰めるとは…。しかし、空間系が無効というのは、意外と辛い。例えば、月弓を一つ例に上げても、その矢の生成位置、発射方向など…意識しなくても空間系の補助力が必要なのだ。
この【神界】スキルだって…移動しながら自動で追従してくれるはずなのだが…動かせないため…肉弾戦にも持ち込めない…。
ゴゴゴゴゴ…。今度は何!? 目の前の地面が…積み重なり…ゴーレムを作り出した。
ガゴーン!! ガゴーン!! ゴーレムの強力なパンチが【神界】スキルの結界を破壊しようとしている。しかし、その程度では…。ハッとする。まさか…時間稼ぎ? ノアに食事も睡眠も休憩も取らせない…そんな…それでは…確かに…いつかは…。
(降伏しろ…)
敵からの念話だ。完全に相手の土俵の上で…混乱していたノアは、思わず…相手の会話に返事をしてしまう。
(どうせ殺されるんでしょ)
(殺しはしない。勇者スキルも奪わない。だが…洗脳はさせてもらう)
洗脳とか…死ぬよりも酷いじゃない!!
(降伏しろ…)
ノアは気付く。己の心が恐怖に支配され始めたのだ。これは…既に洗脳!? 精神系のスキルを使う者もいるのか…。




