第232話
10歳ではブカブカの灰壁馬の外套のフードを脱ぎ、ノアは広間の噴水近くのベンチに座る。
小都市レンドイロの宿から抜け出したノア。もうすぐ夕食の時間だ。メイドがノアが部屋にいないことを知り騒ぎ始めるだろう。
さて、ヨハネス・ケルヒェンシュタイナーは、どのようにしてノアを探すのだろうか? 少し興味がある。ちなみにノア側からは【特定】スキルによりケルヒェンシュタイナーの位置は把握できている。
そして、ケルヒェンシュタイナーに対して、どのような対応をするか、ノアは未だに悩んでいた。剣を手に取り攻撃してくれないかな? ならば…と、ノアはベンチから降り、戦うならば人目につかない場所が良いだろうと、街の外に向かって歩き出した。
門は堅く閉じられていたが、ノアは外壁を飛び越え街の外に出た。飛び越えたけど、ケルヒェンシュタイナーは出てこれるのか? と悩む。そして、より街から離れた森の中で待つことにした。
そして、30分後…。
「遅い…。それでもアンブロス王国の最強の自由騎士ですか!? それでもヴァルプルギスの夜会ですか!?」ノアは左手の甲を腰に当て、右手の人差し指でケルヒェンシュタイナーを刺しながら言った。しかし、ケルヒェンシュタイナーは目を細めたが何も答えない。
「ふんっ! その程度で、ノアの勇者スキルを奪うことなど出来ませんよ。白角馬が病気でないこともわかっています」
「マーシャルの入れ知恵か? しかし、我らアンブロス王国が! そして我が王が!! 世界を手にするために必用なのだ!! 12年前の失態をここで取り返す!!」
「国に忠誠を尽くす騎士気取りですか? 風向き次第で、王国と夜会を天秤にかけ、都合の良い勢力に行くような男が、笑わせないでください!!」
「何の事だ? 意味の理解らぬことを…」
ケルヒェンシュタイナーは抜剣すると剣先をノアに向ける。
「悪いが…お前が死ぬのは確定だ。無理だと思うが、騒がず俺に従えば…痛い思いはしなくてすむぞ?」
「馬鹿言わないで!? スキル強制強奪がどれだけ痛いか自分で試したことあるの?」
「何故…スキル強制強奪の事を!?」
「魔道具が無ければ並の騎士さんにはわからないことですよ」
「黒飛竜のカス、真・冬狐姫のカルメンシータ、灰狼侍・改のアウギュスタ、白浮霊のフェールケティル、鋼巨兵のラヴレーンチェフ!!!」と叫びながら使い魔を召喚する。
カルメンシータ、アウギュスタ、ラヴレーンチェフの三体は長い年月をかけてより強力な個体に自ら進化させていた。
「氷結領域展開コン!!」森が氷で覆われていく。ノアは【結界】の上位【神界】を個別に展開させて、ノアと使い魔達を守る。
「拙者たちが戦うまでもなく、氷結領域展開だけで決着してしまうでござる」と言いながらも一切の隙きを見せないアウギュスタたち。
「ふ、巫山戯るなよ!!」ケルヒェンシュタイナーは魔道具である鎧の力を解放する。しかし、バリンッ!! 脚が太ももから折れる。カルメンシータは既に本体も氷結させていたのだ。
「た、助けて…お、俺は…」
「もう口を開くな…せめて漢として逝くでござる」アウギュスタはケルヒェンシュタイナーの首を刎ねた。




