第231話
「ぷっ。三年後に決着…ぷぷぷぷ…」
「な、何がおかしい!?」
「あれだけカッコつけて…翌日に会うとか…」
「ノ、ノアが呼び出したのだろうが!!」
翌日、威勢よく帰って行ったセレスを呼び出したのだ。国の象徴である白角馬の健康に問題があると、ヨハネス・ケルヒェンシュタイナーが訪ねてきたからだ。
しかし、へんである。ノアは初回と違って、大っぴらに魔物治癒などしていないのだが?
大忙しのセレスは、それでも6歳のリリアナを連れてきた。優秀である。ジュディッタも猫亜人のアネッテ以外の友達が出来て大喜びだ。
リリアナは、状況が飲み込めずにポカンとした顔をしているが、孤児院よりも楽しそうだと思ったのか、次第に笑顔が増えてきた。
リリアナとジュディッタは、アネッテとセレスに任せようと考えていた。
「それでノアは、この旅で、ヨハネス・ケルヒェンシュタイナー、セレスティーヌ・ヴェラー、聖女サトゥルニナ・レーヴェンヒェルムと出会ってしまいます。リオニーとの約束通り、セレスティーヌ・ヴェラーには手を出しません。しかし、ヨハネス・ケルヒェンシュタイナーは、倒しておくべきです」
「ヨハネスの行動は…ノアが理解できるとして。仮にヨハネスを殺した場合、ヨハネスの次に暗躍する者の行動を把握できないんじゃないのか?」
「そうかも…。知らない者であれば厄介」
「三年後、一網打尽にするまで泳がせておいた方が良いんじゃないか?」
「うん…。でも、ノアが白角馬のルートで…生還するパターンって…今回が初めてだよ? そもそも白角馬が病気とか嘘だし…」
「なるようになるしかないだろう。ノアなら問題ない」
「うん…。行ってくるね」
そして、午後、ケルヒェンシュタイナーが用意した馬車に乗り込む。
むぅ…。こいつの悪事を知っているから…。顔を見ているだけでムカムカしてきますね!!
他の者には、ノアは馬車の外の風景を楽しんでいるように見えているが、ノアの頭の中では…ヨハネス・ケルヒェンシュタイナーとの模擬戦が繰り広げられていた。
若いメイドさんのカミラは、ノアが暇そうにしていたからか、いつも通りの説明をしてくれた。
「領都ヴェラーまでは、商業都市サナーセルを出発し、小都市レンドイロ、キロス村、ロペス街、工業都市ヨレンテときて、領都ヴェラーとなります。また一日で街と街を行き来出来るわけではないので、何度も野営をいたします。おおよそ…17日程度でしょうか。それと、申し訳ございませんが、王都までの行程は存じておりません」
リオニーが一緒じゃないから、リオニーとセレスティーヌ・ヴェラーの関係については語らなかった。代わりにリオニーが行方知れずとなったことに、涙する場面があった。
本当にリオニーの事を心配してくれているんだ…。なんか…ごめん…。
また話すことが無くなったので、別のことを考える。工業都市ヨレンテで、聖女サトゥルニナ・レーヴェンヒェルムと出逢うのか。彼女は、いつも助けてくれていた…悪い人じゃないよね。
ノアの調べでは、聖女が神から受ける啓示の正体は、ヴァルプルギスの夜会のリーダーなのだ。それを彼女に伝えれば…もしかしたら、仲間になってくれるかも知れない。
この馬車を守るはずのヨハネス・ケルヒェンシュタイナーから悪意が漏れ出している。やはり敵は…あいつだけ…。白角馬元気、つまり王都まで行かないのなら、どこで仕掛けても同じかな?
でも…一度、話してみたいな。どれほどの悪人なのか確かめたい。
時間の無駄だ。小都市レンドイロで、ケルヒェンシュタイナーを呼び出してみよう。




