第230話
「セレスへの願いは、タムリンとリオニーの協力が必要なのです…。えっと…タムリンがリオニーに力を渡せるのは約2年後です。そして、力を習得するまでに…レナータでも数年必要としました。それとリオニー。わかってると思うけど、もしその時が来たら、ヒノデリカには…別の土地で活動するとか言っておかないと…」
「ヒノデリカには…あの映像を見せないの?」
リオニーが心配そうな顔で言うが、ヒノデリカには見せない方が良いと思っている。
「うん…。あの映像が元で【名匠】スキルを知って…鍛冶屋がその誘惑に勝てるとは思わないから」
情報量が多すぎて、ぐだぐだな会議を進めようとするマーシャルさん。
「で、話しをまとめてみるとどうなるんだい?」
「まずノアの勇者スキルを奪われないこと。これはノア単独でも達成できそう」
「万一がある。俺と…リオニーと言ったな。お前は…辛いと思うが、姉のセレスティーヌ・ヴェラーと父親のディオン・シュルツをどうする気だ? タムリンの力を得るなら…戦う覚悟はあるんだろうな?」
セレスは、このメンバーも支援すると言いたかったのだろうが、身内にヴァルプルギスの夜会のメンバーがいるリオニーの覚悟を問いただす。その威圧的な質問の仕方に、タムリンがリオニーの前に出て、セレスを睨む。
「貴方こそ、レイナルド皇太子をどうする気なのか? と、タムリンは聞いているけど…」
「待って! タムリンの力を得ると言っても、それは…タムリンの死を…意味するのよ? そんな残酷なことを…私は望んでしまっているけど…。もし…私に力があれば…二人の事は、異端審問官として、きっちりとケジメをつけさせて。二人のために…調べてみたいとわからないけど、多くの善良な人たちが犠牲になってる気がするの…」
「私の弟子であり、ヴァルプルギスの夜会へスパイとして忍び込ませていた呪術師アーク・ノルドクヴィストに、二人の犯罪履歴を調べさせることも出来るよ」
「マーシャル殿。そのアーク・ノルドクヴィストでさえ、スパイ活動を隠すために…」
「勿論、犯罪に手を染めているさ。だがね…数十人の命で、限りない命が救われるんだよ。王族なら綺麗事ばかり並べないで欲しいね」
ノアは喧嘩するために集めたのではないと全員に注意を促す。
「マーシャルさん。長距離戦術級兵魔導器も破壊しなければなりません。ですが、状況とタイミングによるのです。そのときの状況を見ながら、即破壊できる方法はありませんか?」
「ないね…。だが…ノアたちなら外部から破壊することも可能だろうね…。つまり、ノアは内部で働く研究者達の命を気にしているのかい? それこそ…必要な犠牲ってもんさ」
「わかりました…ノアも覚悟を決めます」
「まぁ…大分、話しは逸れてしまったが…。勇者スキルは俺も守る」
「セレス、なら…リリアナを孤児院から引き取って、ここに連れてきて。ノアがどんなに頑張っても、リリアナとジュディッタを両方助けることは出来なかったの」
「ノア…結局、ヴァルプルギスの夜会の壊滅と、戦争を阻止できれば…解決なの?」
「…わからない。元々は…タムリンたちの兄妹喧嘩が原因だけど。でも長い年月をかけて、ヴァルプルギスの夜会だとか、血脈を守りし者とか…メンディサバル帝国とか…多くの人たちが関わってしまっているから…」
「でも…ノアは神様なんでしょ? 第三のタムリンであり、精霊王の力も使え、スキルの神様で、魔物を統べる者で…邪神なのに…それでもわからないの?」
「わからないよ! わからない…から…。何度も同じ時間を繰り返して…それでもうまく行かなくて…。だから…皆に助けて欲しいと思って…」
タムリンはオイデオイデする。泣きそうになりながらタムリンに抱きつく。
(大丈夫だよ。きっと…うまく行くから…)
(でも…何も…決まって無いんだよ?)
(当たり前だよ。誰も知らない未来なんだから…)
「では…タムリン。気を悪くしないでくれ。リオニー、三年後だ。三年後に…すべての決着を付ける。それまでには…」
セレスはリオニーに念を押す。そして【転位】スキルで姿を消したのだ。




