第215話 世界の真の守り人・賢者マーシャル編
魔法都市ヴェラゼンに聳える十一塔の一つ、呪術の塔にマーシャルの姿はあった。その隣には、呪術塔の主アーク・ノルドクヴィストの姿が。
「やはりタムリンが作り出した世界を…作り出された我々が、管理するのには無理があったのでしょか?」
アーク・ノルドクヴィストの問に、マーシャルは目を閉じる。
全ては異世界人ヒガシヤマとの出会いから始まる。荒唐無稽な彼の話しを手放しで信じていたわけではない。だが時折見せる驚異的な知識と能力と、長い年月を共に過ごしたことで、いつしか信じていくのだった。だけど…ヒガシヤマが、永遠の命を持つ精霊王だという証拠は見つけたが、異世界人たという証拠はなかった。
異世界があり、世界が作られ、ならば、私も私のために世界を作ろう。しかし、真似事は出来ても新たに世界を作り出すことは叶わなかった。
それと同時に老いていく自分と、いつまでも若々しいヒガシヤマ。その負い目からか、不老長寿の秘薬に手を出してしまったが、結局完成したのは初老のおばあちゃんになったときだった。
自分の老いた姿をヒガシヤマに見られるのが辛く、ヒガシヤマから離れることにした。それで世界を創る課程で知り得た、タムリンたちという神々の存在と生み出された悪魔について、研究するようなり、結論として神を殺す兵器が必要だと確信した。
それが長距離戦術級兵魔導器だ。原理は、呪詛の光線の拡張版だ。他の魔術や魔法を戦術級に拡張しようとしたが、エネルギーとなる魔力が足らなかった。なので、恨み辛みを抱えた人の魂を数十年も寝かせエネルギーとして利用できる呪詛を選択したのだ。しかし、一度使用したら数十年使用不可能になる。
そもそも長距離戦術級兵魔導器は人類の最後の切り札。こうならないように、幾重にも知略を張り巡らせ…世界をコントロールしようとしたのだが…。
まず勇者スキルの器となり得る者を探し出した。それがレレ村に済んでいたノアだ。ノアの両親を洗脳することで、ノアを私の思うがままに育てた。
そして、勇者スキルの保有者を見つけ出し、ヨハネス・ケルヒェンシュタイナーを利用して、勇者スキルをスキルスクロール化した。そして、ヨハネスを罠にはめて…ノアに勇者スキルを覚えさせた。
勇者スキルを破棄してしまう案もあったが、失った時に何が起こるか想像も出来ないため、ノアに託したのだ。
その一方で、もう一人重要な人物であるタムリンの神々の記憶を抹消させ、手元に置く。
二人を監視しながら生活するが、ノアは徐々に勇者スキルの力を開花し始めてしまう。すると当然ながらスキル争奪戦が始まったしまった。しかし、ノアは己のスキルを最大限に活用して、姿をくらましてしまった。
私の弟子であり、ヴァルプルギスの夜会へスパイとして忍び込ませていた呪術師アーク・ノルドクヴィストに、ノアを奪還出来ない場合は、殺しても構わないと指示してあったが、勇者スキルを奪われてしまった。さらに早速、勇者スキルを利用されてしまい…私達は、勇者スキルの存在自体を記憶から消されてしまったのだ。
私だって人の子だ。ノアやタムリンが憎いわけでもない。むしろ、本当の娘のように愛情を注いだこともある。
タムリンは行方知れずだが、ノアは…驚くことに生きていた。ヒガシヤマの助力によるものだと聞いたときは、さらに驚いた。
そして、また…ノアの運命を弄ぶのか…許しておくれ…。
「長距離戦術級兵魔導器、撃て!!!!」マーシャルのド号が響く。




