第214話 レイン編
反旗を翻したセレスティーヌ・ヴェラー様の逆賊と呼び、討伐のため騎士団を派遣したアンブロス王国。
ヴェラー軍5万と討伐軍1万の戦いは、勝利の門に集結するアンブロス王国軍から援軍が出される前に決着を付けねばならなかった。
5万の軍勢とは言え、時間も準備も足りないヴェラー軍の出来ることは、数で押し切ることだった。想像以上の犠牲者を出しながらも、ヴェラー軍は、討伐軍を返り討ちにして、勝利の門の王都側に到着する。
勝利の門に集結するアンブロス王国軍は総勢11万。半分以下の5万で勝利の門の開門作戦は…成功するのだろうか? 作戦に成功すれば、勝利の門の外側から、メンディサバル帝国がなだれ込んでくる手はずだ。失敗すれば…全員が死ぬことになるだろう。
覚悟していたけど…人間同士の戦いは、魔物の討伐とは…違っていた。冒険者なのだから、盗賊相手に戦うこともある。だけど、決定的に何かが違った。私は…仲間を…こんなことに巻き込んでしまって…ま、間違っていたのではないだろうか…。
気分を変えるために野営地から離れる。これだけの人気があるのだから魔物もいないだろうが、一応剣を持つ。ぶらぶらと歩いていると、野営地から見えない綺麗な清流に辿り着いた。決戦の明日、死んでもいいように…体を清めたいな。
ここまでの人生…間違っていないよな。子供は…欲しかったかな。温かい家庭を夢見たこともあったが、でも、どうせ刺激が少なく数年で…家族を捨て冒険者に戻るのが目に見えていたから。今になって後悔している…まさか…。
水浴びをしていると…背後から抱きしめられた。
「レイナ…」弓士のライナーの声だ。
ライナーも裸だった。長年冒険者として各地を旅してきた仲間のライナーから、体を求められたことはない。しかし…明日は…きっと目覚めて次の朝日を見ることが出来ないだろう…。私の体でライナーが満足するなら…。
◆◇◇◇◇
翌日、勝利の門への突撃が始まった。アンブロス王国側つまり内側には、万が一勝利の門が奪われたときのために、奪い返すことを目的として、防御も攻撃も機能的に抑えて作られている。
だが勝利の門の全面には、アンブロス王国軍4万が配置され、左右には3万の兵が配置されている。
取り囲んで殲滅する気なのは理解っているが、ヴェラー軍には突撃して、勝利の門を開門させるしか、勝利する道はないのだ。
レインは、仲間たちの顔を見る。私が…お前たちを殺してしまう選択をしてしまったのに…何故、それほど…優しい笑顔でいられるのか…。
「行こう! お前らは最高の仲間だ!!」
レインが走り出すと、ヴェラー軍の後方から、全く予期していない新たなアンブロス王国軍が突撃して来た。後方のアンブロス王国軍への攻撃指示が出る。私達が抑えなければ、突撃部隊が後方から大ダメージを受けてしまうのだ。
「どうせ死ぬなら、勝利の門へ突撃したかったな」と愚痴をこぼした。
そして、死ぬ間際に見たのは、禍々しい黒い光であった。




