第208話 ジュディッタ編
ヒノデリカのふくよかな胸に掌で触れる。
「このまま…。動かないでください。魔力の流れを調べます」
魔剣とヒノデリカは契約しているはずなのだ。その要となる部位を探すために、目を閉じ魔力の流れに集中する。
「聖女様。私は…。愚かな人間です。怒りに任せて、悪魔と…契約をしてしまいました」
突然、ヒノデリカが告白を始める。
「心に抱える…悩みや恐れを真実のみ言葉にして、聞かせてください」
「はい。私の右手…。いえ、この体は、始まりの魔剣に取り込まれています。作ったのは…私です。世界中に溢れる怒りを恨みを呪いを込めて作りました。すると魔剣は私に話しかけてきたのです…」
ヒノデリカの声を遮るように、右手の魔剣から声が漏れ出す。
『そうだ。お前の声と寿命を…我に差し出せ。力を与えようってな!! もう、この娘の命は…残り少ない。俺の力を使っちまったからな!!』
「ヒノデリカの命が尽きた後は…どうなるのですか?」
『ただの魔剣となるだけさ。魔剣として…触れた剣士や騎士を呪い…操り、人間を殺して、殺して、殺しまくるだけさ!! なぁ、ヒノデリカ!? お前の望みどおりだろ!? カッカッカ!!』
「それで…ヒノデリカはどうして告白を始めたのですか?」
「リオニーのお父さんを追い払う時…初めて力を使いました…あれほど…恐ろしく強力だと…思ってももませんでした…」
『当たり前だろ? 魔剣だぜ? それに全力は、あんなもんじゃねーぞ!!』
「聖女様。私を…殺してください。そして…出来るなら…魂を…安らかな場所へ導いてください」
『カッカッカ!! 無理だぜヒノデリカ!! お前の魂は我が手中にある!! 永遠に殺した人間たちに恨まれ続けるんだ!! この世界でな!!』
「ヒノデリカ…。私は、貴方を殺すために…ここに連れてきました」
「はい…。理解っています。多くの人々を救うために…私の命を役立ててください。それが…禁忌を犯した愚かな人間の罪滅ぼしです。それで…どうか…導いてください」
ヒノデリカ…。私は…滅茶苦茶な事を言っているのですよ? 貴方を殺すと…。
『カッカッカ!! 殺すことなんて出来ねーぞ? こいつは…ぐはっっ!?』
契約の要は…ヒノデリカの心臓だ。私は光の衣という魔法で右手を覆い。ヒノデリカの心臓を、その美しい体から抜き取った。
ヒノデリカは、痛みや恐怖に顔を歪めることなく、安らかに…いや、微笑んでいた。しかし、彼女は、悪魔から解放されたわけではない。肉体も魂も始まりの魔剣の所有物なのだから。
そして、私はヒノデリカの意志や意図を全て無視し、始まりの魔剣の力を我が物にしようとしているのだ。
では、何故ヒノデリカは微笑むのだ? 理解できなかった。
抜き取った心臓を、光の墓所という魔法で封印する。
カランコロン…。ヒノデリカは一本の魔剣として地面に転がり落ちた。
「ヒノデリカァァァァ!!!」
死神の鎌を召喚したリオニーが、地下倉庫に降り立つ。その怒りに満ちた視線に耐えきれず、魔剣に目を向け、その魔剣…始まりの魔剣を手にした。




