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ノア・デモニウム・プリンセプス  作者: きっと小春
第五部 その手から零れ落ちるもの
194/243

第194話 ドナート・エフィム編

 開戦前夜。


  アンブロス王国との国境付近に広がるメイナード荒野。このメイナード荒野を抜けた先には、霊峰マーシャル山に連なるアリスター山脈がメンディサバル帝国からアンブロス王国を守るかのよう続いており、唯一アンブロス王国へ抜けるルートは山脈に挟まれた谷間を抜けるしか無い。


 また谷間には、過去の大戦においても突破されたことがない、勝利の門(ウィクトリアポルタ)と呼ばれる城塞がある。


 メンディサバル帝国へ隣接するロンゴリア領地には、アンブロス王国の王都がある。余りにも帝国への距離が近いため、過去に何度か王都を移転させる議論が持ち上がったのだが、「まるで栄えあるアンブロス王国が敵国に怯えて逃げているようだ」と進展がないことは、周辺諸国でも有名な話だ。


 そのメイナード荒野に、メンディサバル帝国軍14万を率いて進軍した統合総司令部最高指揮官ドナート・エフィムは、待ち受けるアンブロス王国2万と対峙しながらも、王都を移転しておけば死なずに済んだのかもなと、明日以降行われる虐殺に心を痛めた。


「しかし、アンブロス王国は大人しいものですね」


メンディサバル帝国の属国であるエルネスト公国から派遣された騎士団長ドナ・アメーティスが重い空気を変えようと口を開く。


「恐らく、アンブロス王国軍は、開戦の書状でも待っているのであろう」


 同じく属国であるバルバストル小国から貫禄を付けるために派遣された王太子ロルフ・バルバストルも出来ることならば、騎士道に反するような宣戦布告無しに…敵を蹂躙する行為は避けたかった。


「これは…戦いではない。ただ兵を押し進め、害虫を駆除する…作戦なのだ」


 それだけ告げると、エフィムは踵を返し自身の天幕へ戻ってしまった。


 開戦初日。


 朝焼けが荒野を照らし始める前、メンディサバル帝国軍の歩兵隊7万がゆっくりと進軍を開始し国境を跨ぎ、アンブロス王国軍へ攻撃を始めた。


 いや初撃を行ったのは歩兵隊ではない。魔導騎兵隊と呼ばれる大火力の魔法を放ち一撃離脱を得意とする部隊であった。


 焼け落ちる天幕、混乱するアンブロス王国陣営、魔法攻撃により指揮官を失ったのか、まるで統率が取れていないところに、メンディサバル帝国軍の歩兵隊7万が津波のように押し寄せ、抵抗する間もなく飲み込まれ…死屍累々の光景だけが残った。


「本当に書状を受け取るために出て来たのだろうな。2万というのは…まぁ、見栄えというところか」


 エフィムは、まるで歯ごたえのない戦果に拍子抜けした。


 しかし、これからが本番である。勝利の門(ウィクトリアポルタ)を攻略しない限り、本当の意味で、アンブロス王国へ攻め入った事にならないのだから。


 もとより、迂回路も無ければ、謀略により内側から門を開ける策もない。地味に人手と命をかけ、勝利の門(ウィクトリアポルタ)を破壊する計画なのだ。つまり、このメンディサバル帝国軍14万は、消耗品なのだ。


「斥候部隊および第一陣の進軍を開始!」とエフィムは指示を出す。すると残された第二人の各隊から「もう後戻り出来ない」「今回は、痛み分けなど無い」「食うか食われるかだ」と鼓舞する声が聞こえてきた。

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