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ノア・デモニウム・プリンセプス  作者: きっと小春
第五部 その手から零れ落ちるもの
178/243

第178話 ノア編

之亜(ノア)! 之亜! 起きて、お父さんが帰ってきたみたい」


 部活を終えた之亜は、約束通りに夏海の家に泊まりに来ていた。汗だくだった之亜は、夏海と一緒にお風呂に入り夏海の部屋着を借りて、夕食までの時間をダラダラと過ごしていたのだが、部活の疲れもありいつの間にか寝ていたのだ。


「う、うん…」


 ノアは、見たこともない作りの部屋と、不思議な物で飾られた部屋、何に使うか理解らない道具たちに驚くが、この世界では、この体を使えということなのかと、すぐに理解した。


 そして、目の前にいる小動物のような可愛らしい女性は…。


「東山 夏海」

「ね、寝ぼけてる? 起きて人のフルネーム呼ばないでよ」


 この世界でも【看破】スキルは使えた。この夏海は、ヒガシヤマさんの娘だ。


 神様は…私も神だけど、何て残酷な事をするのだろうか? 何でノアをヒガシヤマさんの妻にしてくれなかったのか。


 ノアと夏海はそろって、帰ってきたヒガシヤマさんに、「「おかえり〜」」と言った。


「ただいま。 之亜? そっか、今日は、お泊りの日だったね。こんな時間だし、お腹減ってるよね? 待ってて直ぐにご飯の用意するから」

「本当は、夕飯作って…」

「ははっ。いいって。二人が女子力無いの知ってるから」


 ヒガシヤマさんが、エプロン姿で台所に立つ姿をチラ見しながら、夏海とTVを観る。之亜の記憶によれば、夏見のお母さんは既に他界している。


 これがヒガシヤマさんの世界。日本か。


 ヒガシヤマさんは、母親に刺殺されてノアの世界に来ていたヒガシヤマさんとは、容姿がことなる。だけど紛う方なきヒガシヤマさんの魂を内包する肉体だ。

 つまり別の人生を歩んでいる!?


「夏海、ちょっと飲み物取ってくる。夏海は?」

「うん? いいや」


 勝手に冷蔵庫を開けて、コップに麦茶を注ぐ。その隣では…手を伸ばせば…触れられる距離に、ヒガシヤマさんはいた。


「精霊王?」


 意を決して、小さな声で話しかけた。


 熟練の料理人のような包丁さばきを披露していた手がピタリと止まる。


「之、之亜ちゃん? いや、ノアなのか?」


 ヒガシヤマさんが、ノアの瞳を覗き込む。


 夏海が近くにいるから、泣きそうになるのを我慢する。


「う、うん…。来ちゃった」


 自然に伸ばした手を、ヒガシヤマさんは、優しく握り返してくれた。


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