第174話 聖女サトゥルニナ・レーヴェンヒェルム編
都市バルテが燃え上がる前の話…。
2年前の夏頃だったか。古代教会の神殿の隠された部屋にて、教会の暗殺部隊からの報告により、真神タムリン教会という新興宗教の名を聞く。
「タムリン」
嫌な予感がした。
ノアの勇者スキルの次は、ヒノデリカの名匠スキル。そしてメンディサバル帝国の動き。だが、サトゥルニナには、それ以上、にタムリンという名に世界の真理を感じていた。
「ただの村娘サトゥルでも、神々から啓示を受けることくらいはできるのですよ…」
しかし、行方知れずになっているタムリンと、ヴァルプルギスの夜会のリーダーの容姿が非常に似通っていることについての調査も行き詰まっていた。
そして1年前には、真神タムリン教会の勢力は、無視できるものではなくなっていた。
いつもの通り真神タムリン教会に、最も古い団体である古代教会の神との繋がりを、教えの中に組み込むように圧力を掛けた。
しかし、予想に反して、その圧力は跳ね返された。
「ならば、真神タムリン教会を信仰する者を異端として異端審問官により処分するだけです」
これも上手く行かなかった。キルスティ共和国は、古代教会を通して、裏側から共和国への支配を画策する流れを嫌い、古代教会と異端審問官を国内から排除すると宣言したため、真神タムリン教会の拡大は加速することになったのだ。
「ならば、真神タムリン教会の主要人物および主要都市を壊滅させなさい!!」
古代教会の看板娘である聖女という大役を任さられたのだ。村娘から聖女に祭り上げられたときとは、もう状況が違いすぎた。頭の天辺から足の指先まで聖女なのだ。古代教会なくして、私の存在はない。
だが教会の暗殺部隊だけでは、思うように事態は改善しなかった。
そして、今、窓一つないドーム型の部屋。その部屋の中央には円卓があり12の椅子に並んだヴァルプルギスの夜会メンバーに対して、リーダーは英雄スキルを行使して…私達を…心を…支配した…。
英雄スキルには2つの能力があった。1つ目は皇位継承第4位のセレスティノ・ヘルメスベルガーが使ってしまった4万を越えのスキルポイントの取得、2つ目はリーダーが使用している【統率】のスキルである。これはノアの【支配】スキルとは異なり、人間にのみ効果があり、軍や国など広範囲に影響を及ぼすスキルである。
奪ったスキルのためリーダーが使えるのは、2つ目の【統率】のスキルだけである。
「お前たちは、忠誠心以上に、己の利益や快楽を優先させすぎる。そのため心を奪わせてもらった。しかし、幾分感情は残してある。完全に心を失くしてしまえば、操る側も大変なのでな。無能なお前たちの所為で勇者スキルを帝国に奪われ、その帝国は益々強大な力を付け始めている。そこでお前らの使命だが、各地に散って対抗する戦力を確保してくるのだ」
スキルにより、支配されていることは…わかっている…。だけど、心地よい。リーダーのためなら…死をも辞さない。役に立ちたい…。
「ときに。サトゥルニナよ、真神タムリン教会だったか? 名前も気に入らんが、その新興宗教の勢力に押されているそうではないか。お前に牙を剥くということは、ヴァルプルギスの夜会に牙を剥いたのと同じこと。我が計画を持って粛清してやろうではないか」
偽りのタムリンと真のタムリンの戦いが幕を開けた瞬間であった。