第170話
「うん。似合ってるけど…。その服も買うけど、もう少し…歩きやすい格好の服にしない? それと、ドレスの着付けなんて出来ないし、アイテムボックスなんてないから、この店で預かってもらえるかな?」
それでもジュディッタは気品あふれる衣装を纏い、本物のお嬢様のように笑顔を振りまく。
「むぅ。流石アダルベルト。いいセンスしてんなぁ」
「いえいえ。アネッテ様のアドバイスがあってこそです」
おい、いつの間にか名前で呼び合う仲になったんだ? テーブルに用意された紅茶をグビッと飲む。良い茶葉だな。いや、味なんてわかんないけど…。
「いや、しかし、ジュディッタ様が。元盗賊の頭の娘など、誰が想像できましょうか」
ブシュゥゥゥゥッ!! ノアは、壮絶に紅茶を吹き出す。
「な、何、ベラベラと喋ってんの!? アネッテ!!」
「ノア、勘違い、良くない。喋ったのジュディッタ」
「あの…出来れば…いや、誰にも言わないで欲しいのですが」
「はい。お客様の個人情報を漏らすなど、商人としてあってはならない事ですので、ご心配なく。それにノア様とは今後も懇意にさせて頂きたく…」
「うん…。ジュディッタに必用なのは、常識とマナーの勉強なんだけど、教育を任せられる人物を紹介して欲しいのですが」
「はい。であれば、我がバッカウゼン商会の教育係にお任せ頂きたい。店に出ても問題ない程の教養とマナーを身につけることができます」
「ジュディッタを商人にするつもりは…今のところ無いけど…ジュディッタどうする? こんなチャンスは滅多に無いよ?」
「う、うん…本当は、お姉ちゃんと…ずっといたいけど…今、頑張らないと…。私、この街が気に入ったの。ここで暮らせるように頑張りたい」
「ならば、住み込みでどうでしょう?」
「住み込みだけど、あくまで教育させてもらってることにしておくね。費用は前金で払います。追加料金もあれば請求してください。ノアは宿屋を探して戻ってきます」
「であれば、バッカウゼン商会直営店の宿屋を紹介…いや予約してきましょう」
「商売上手だね。うん、お願い。えっと、ジュディッタは、どうすればいい? このまま預かってくれるの?」
「はい。お任せください」
「ジュディッタ大丈夫そう?」
「うん。頑張る」
「そう、ノアは調子が悪いから宿で休みたいから、もう行くね」
「宿屋はこの店舗の隣です」
宿屋に行くと、事務手続きが済んでおり、直ぐに部屋に通された。
ノアはベッドに倒れ込む。
「お金がかかりそうだね。しばらくはハンターの仕事頑張らないと駄目だね」
「不死鳥のエドゥアールが、たまには暴れたいと言ってたよ?」
「いや、大災害になっちゃうから」
◆◇◇◇◇
現代に神であった八人のタムリンの力を受け継ぐ者は3人だ。
一人目は、タムリンそのものであったが、禁忌の大魔術におり寿命を全うし、その肉体と精神を受け渡されたレナータ。
二人目は、悪魔に肉体を破壊され、月の形のペンダントに憑依することで月妖精となり、巡り巡ってノアの心臓になったため…知らずにノアが受け継いでいるのである。
三人目は、ヴァルプルギスの夜会のリーダー。
しかし、タムリンが作り出した世界に、蘇らせたタムリンは二人であり、三人目が如何なるタムリンなのかは、全くの不明であった。