第169話
既にキルスティ共和国に入っていたノアだが、体力が戻らないまま無理して移動するのも、ジュディッタと信頼関係を築けていないのに、ヴォルフたちと再会して迷惑かけるのも、駄目だと判断した。
大きな川を挟む小さな都市バルテで、人間社会に慣れてもらおうと考えた。
「ジュディッタ、良いですか。街に入りますが、約束があります。ノアから離れない。騒がない。慌てない。物、人、何でも見て聞いて感じてください。全てが勉強です。あっ、それと勿論、盗賊の娘だってことは内緒ですし、忘れてください」
偉そうなことを言っているが、猫亜人のアネッテに、おんぶされているのだ。
それでも緊張しているジュディッタは、「うん…」と小さく素直に返事をすると、アネッテの手をギュッと握った。
街の門を抜けると、侵略時の事などお構いなしとばかりに、一直線に大通りが伸びていて、街路樹と店が綺麗に立ち並んでいた。
「うわぁぁぁっ…凄く綺麗…」両手を胸の前で組み感嘆の声を漏らすジュディッタ。
「まずは汚れた衣装を買い替えましょう。ジュディッタは、運動よりも魔法が得意なのですか?」
「うん。動き回るのは苦手なの」
「それなら可愛い系でいいね」
ノアは可愛い服を求め貴族街に行きたかったのだが、ノアは貴族でないためハンターギルドからの依頼書などが無ければ貴族街に入ることが出来ない。しかし、貴族街の貴族のための衣装屋と契約している平民街の衣装屋があるのだ。
「高そうな服を売っている店なら…」
灰壁馬の外套と、ボロボロの服を着ている少女、亜人の娘の三人組の入店に、店主は嫌な顔をする。
「こちらで扱っている商品は非常に高価でして…」
ドガッとバルバストル金貨100枚入りの革袋を3つテーブルに置く。
「バルバストル金貨で申し訳ないけど、ジュディッタお嬢様に相応しい服をお願い。それと出来れば湯浴みさせてあげて。追加料金が必用なら請求して構わない。それとジュディッタお嬢様に質問はしないこと。これでもノアは少しは名の知れたハンターだから」
ヒガシヤマさんに作ってもらったギルドカードをテーブルの上の置く。カードの裏には、討伐した黒飛竜などの魔物がズラリとリストアップされていて、それを確認した店主は、手のひらを返したように接客態度を改めた。
「ジュディッタお嬢様のために湯浴みの準備を。それと…ジュディッタお嬢様。どのような衣装がお好みでしょうか?」
ノアはフラフラと店の端にある椅子に座り目を閉じる。
アネッテが店の店主を煽って…というか…意気投合して、高額な商品に手を出している気がするが、ノアは…兎に角…眠かったのだ。
どのくらい時間が経ったのだろうか、ノアはアネッテに起こされる。ジュディッタは?
「お姉ちゃん…似合うかな??」
何処のお姫様だよ!? というくらいにイメージチェンジに成功してしまったジュディッタ。だが、流石に…その格好で街中は歩けないだろう…。