第168話
「お姉ちゃん…しっかりして、起きて!」
ノアはジュディッタの父親を殺してしまった自責の念に駆られ、衝動的に持っていた短剣で腹を突き刺したのだ。
黒飛竜のカス、灰狼侍のアウギュスタ、鉄巨兵のラヴレーンチェフに治癒する術はなく、真っ赤に地面を血で染めていくノアを見守ることしか出来なかった。
しかし、偶然にもジュディッタが、癒やしの魔法の使い手であったため、一命を取りとめたのだ。ジュディッタは、ノアに後遺症も傷跡も残らないようにと、魔力欠乏症になる寸前まで、治癒を続けてくれたのだ。
起きたノアは泣き出してしまった。
「ごめんだざい…。ごめんだざい…」
「良いの。父親らしいことは…何もしてくれなかったし。沢山の人を…殺したんだもん…」
ジュディッタが、ノアの頭を優しく撫でると、まだ大量に出血して血が不足しているためか、また眠ってしまった。
またノアが目を覚ます。ラヴレーンチェフが四つん這いになって屋根代わりに、カスが風上で翼を広げ、アウギュスタが焚き火の番人と役割分担をしていた。
ジュディッタは、ノアに抱きつきながら、ジッとノアを見つめていた。
「ジュディッタ…」
ジュディッタは、ノアの唇を人差し指で押さえる。
「責任を取ってくれると言うなら、3つお願いがあるの」
ノアはコクリと頷く。
「1つ目は父親を殺したことを忘れて欲しい。2目つは友達になって欲しい。3つ目は…狡いけど…私が…大人になるまで…一人で生活できるまで…一緒に居て欲しい」
ノアはコクリと頷く。
子供の面倒を見るべき親を殺してしまったんだ。当たり前であり、何も問題はない。
「それには2つの方法がある。ノアは兎に角敵が多い。一緒にいると危険な目に沢山あう。でも、ノアはお金持ち。危険だけど一緒に旅をするか、どこか好きな街で貴族並みの生活と教育を受けるか、どっちがいい?」
「ノアと一緒。だって…街って…どんな場所かわからないし」
「そっか。だったら、沢山の街や経験を積んで、答えを出せばいいよ」
「…うん。ありがとう…。私も…生きて良い人間なのか…わからないんだ。だって、殺した人のお金と食べ物で生きてきた…人間なんだよ…」
「うん…世の中は悪意で満ちているし、ノアも悪い人だから…どうしようね…わからないよ」
翌朝、カスで上空から街を探し、街から離れた場所で、猫亜人のアネッテを呼び出す。
「ノアも悪人の仲間入りですね! こんな小さな女の子の父親を殺すとは…」
「お姉ちゃん、この人、本当に仲間なの? 悪い人じゃないの?」
「ジュディッタ、よく聞いて、人を殺し続けると、こういう人になっちゃうんだよ」
「ノア! 酷い!! 私はノアの指示でしか殺していませんよ!? 多分」
「いいから、おんぶして、ノア、血が足らなくて歩けないの」
「死んでお詫びとか、どこのサムライですか?」