第165話
「お前さんは…ノア!? 死んだと聞いていたが…」
ヒノデリカのお父さんとは、何度か話したことがあり、一応、面識はあった。だけど、それだけで数年も覚えているなんて、ノアには無理だ。職人と言えども商売人だから? ノアも元商人だったけど?
お父さんから話しを聞くとノアは、大通りのカフェで話を整理する。
ヒノデリカは、言葉を失ったことで伝説の武具を作成可能な固有スキルである【名匠】を手に入れた。そして、ある日、忽然と姿を消した。
ノアと似ているんだけど…。
リオニーの家にも行きたいけど、異端審問官だからなぁ…きっと話し合いよりも戦いになるよなぁ…。
リオニーたちよりも、タムリンが先に失踪したのかな? でも、タムリンはマーシャルさんの家に帰らない日々が続いていたし、正確な日がわからないんだよね。
「情報が少なすぎる…」
ふぅっと、一息つき大通りを見渡す。勇者スキルが知られる前、朝の礼拝に通っていたときは、見知らぬ大人に絡まれたり誘拐されるのが怖くてビクビクしていた。勇者スキルが…というより高レベルのスキルが知られてからも、複数の組織などから狙われ同じようにビクビクしていた。
今はどうだろう? うん。堂々としている。
ノアに自身を与えてくれたヒガシヤマさんと使い魔たちに感謝する。
それはそうと…確か、ノアがアンブロス王国を逃げ出したのは、聖女サトゥルニナ・レーヴェンヒェルムと話しをしていて…勇者スキル持ちがバレてしまったのよね。
『ロストスキルと言われるくらいに【特定】スキルを保有できた人物はいない。それはもう…神話級』とか言われたけど、もう一人いるんだよね。皇位継承第4位のセレスティノ・ヘルメスベルガーが。
あれ? それに…。勇者スキルを奪った古代の禁忌魔術って、言われた通りノアは一度死んでしまったけど、約40,000人の魂が必用で都市が一つ滅んだとか言ってた気がする。ノアから勇者スキルを奪ったとき…その魂は…何処で集めたんだろう?
白浮霊のフェールケティルの証言によると、ノアを殺したのは、ヨハネス・ケルヒェンシュタイナー。国の象徴である白角馬の命がかかっているとかなんとか言って、ノアを街から連れ出した男。
個人の意志で動いていたのか、アンブロス王国の命令なのか。
でも約40,000人の魂か…。自然災害? 戦争? あっ! メンディサバル帝国が周辺国を属国とするために躍起になっていたのって…。う〜ん。わからないな。でも、そういう事なんだろうね。
それはそうと、ヨハネス・ケルヒェンシュタイナーに出逢ったら復讐する? う〜ん。もう過去のことなんだよね。また出逢って、そこらの盗賊と同じく剣を抜いてくれるなら、その場で殺すけど…。
って、いつから物騒な考えをするように!?
ノアは…どうしたいんだろう?
そんなの決まってる。自分の使い魔店を持って、静かに楽しく暮らすことだ。みんなの無事を確認したら、世界の流れから抜け出して、自分の人生を歩みたいな。
と、結局何も解決しないままノアはマーシャルさんの待つお屋敷に帰ったのだった。




