第163話
古代教会の神殿にある小さな部屋に、ノア、リリアナ、セレス、聖女の四人のみがいた。
「し、師匠、な、何で私がこの場に!?」と、リリアナが小声で聞いてくる。
「えっと…どちらの話から始めれば?」
ノアの問に、「私のは世間話ですので…ですが、この場に私がいても?」と、聖女が答える。
「どうせ知れることだ構わない。だが、立場をはっきりさせて欲しい。この場にいるのは、聖女としてなのか、ヴァルプルギスの夜会としてなのか、ノアの友人としてなのか…」
「友人です!! いや親友!? 恋人…には…まだ…早いか…な…」
「師匠、あの人…本当に聖女様ですか?」
どうもリリアナは聖女に失望しているようだ。
「で、君が…リリアナだね? ノアから話しは聞いているかい?」
突然、話を振られて立ち上がるリリアナ。
「ひゃい! リ、リリアナです!! は、話しですか…?」
リリアナが、こちらを見る…。見ないでぇ!
「い、いや…。昨日は、人助けで緑豚兵巣に…」
監視されていたのだ、セレスが知らないはずがない。
「はぁ。やっぱり言ってないのか」
「ご、ごめんなさい…。言い出せなくて…」
セレスの話しを聞いた聖女は、楽しそうにニコニコと笑顔だ。リリアナは、驚きのあまり口が開いたまま硬直している。
あぁ…。お酒のみたいな…。
「う、嘘じゃないんですよね…。で、でも…勘違いでは?」
「いや、ノアと同じ【看破】スキルで、君を調べさせてもらったが…。間違いない」
「師匠と同じ!?」
うっ。いちいちノアの名前を出さないで!! そして、リリアナこっちを訝しげな目で見ないで!!
「私が…妃ですか…」
ぎゅっとノアの手を掴むリリアナ。
「師匠。私が…連れて逃げてくださいと言ったら…どうしますか?」
涙目の上目遣いのリリアナは…弱々しい小動物みたいで可愛い…じゃない。そうだなぁ…。
「そだね…。リリアナは知らないだろうけど、ノアも知らないけどね。ノアより強い人なんて沢山いるんだよ。例えば、そこのセレス…セレスティノ・ヘルメスベルガーとかね。だけど、リリアナが本当に逃げたいと言えば、世界を破滅させてでもノアは、命に代えてもリリアナを逃してあげるよ」
「師匠…」
座っているノアに抱きつくリリアナ。
「そうですか。リリアナが帝国入りすると、ノアも帝国を守る盾になってしまうのですね」と聖女は呟く。