第160話
「し、師匠…これは…一体!?」
もう外に出たくないとヒキコモリ宣言をした我が弟子のために、いつもならば街を出て逃げてしまうノアのために、二人の閉じた未来を切り開く…スペシャルなアイテムを、金貨を積み上げて職人に作らせて来たのです。
「特攻服と言います。もう泣き寝入りはしません。背中のロゴを見てください。『喧嘩上等』です。これはカカッテコイヤーという意味です!!」
「この天下無敵は…何となく理解るのですが、不倶戴天とは?」
「う〜ん…。ヒガシヤマさんの記憶には、意味について残ってませんが、きっとルーン文字ですよ。ほら、リリアナには紫、アネッテには赤、アウギュスタには黒、カルメンシータは白ですよ。あっ! エーベルハルトの分もありますから心配しないでくださいね。ちなみに青です。ノアは灰色ですよ。それに日本ではお祭りのときに着る正装らしいので、お祭り中のルドワイヤンにぴったりです」
全員が着替える…。
「し、師匠…。何となくですが、何もしていないのに悪人になってしまったような…。それと…何故か気持ちが高揚しています…。馬に乗って爆走したい気分です!?」
「確かに…。拙者の…日本リスペクト魂が…震えるでござる…」
特攻服を着たノア達は、祭り初日の自由都市ルドワイヤンを練り歩く。
「凄いです。師匠。みんなが…避けてくれます。歩きやすいです!!」
まるで海が真っ二つに割れたように、人々が左右に別れ、中央に道が出来る。
「やっぱり、このロングコートに刻まれたルーン文字に、人を避けさせる効果があるのコン?」
「う〜ん…。そうなのかな…」
◆◇◇◇◇
窓一つないドーム型の部屋。その部屋の中央には円卓があり12の椅子が用意されていた。
数年ぶりに開かれるヴァルプルギスの夜会。
「…なるほど、記憶を改ざんさせられていたわけか。あの日、勇者スキルを手にしたのは、メンディサバル帝国の名も無き騎士団長プルデンシオ。知っての通り、彼はヴァルプルギスの夜会がメンディサバル帝国に送り込んだスパイだ。彼は皇位継承第4位のセレスティノ・ヘルメスベルガーから英雄スキルを奪い我が主へ捧げた有能な騎士だった。しかし、今回は裏切り、皇太子レイナルドへ渡した。そして、その空席となったプルデンシオの席を狙い…情報を提供してきた男から、ノアの生存を確認した。皮肉なものだ。ノアというキーワードを手にした時、記憶の綻びに気づき、改ざんさせられていた事実を知り得たのだからな…」
魔法都市ヴェラゼンに聳える十一塔の呪術塔の主アーク・ノルドクヴィストが全員に説明する。
「ノアが…生きている!? 本当なのですか! ノアは…何処に!?」
聖女サトゥルニナ・レーヴェンヒェルムが席を立つ。
「レーヴェンヒェルム。貴様は先の戦いで、ヴァルプルギスの夜会を裏切ったのだぞ? 良くもノコノコと来れたものだな」
「あら? 裏切ったのは私だけではないでしょ? それに裏切り者を粛清したら、半数近くがいなくなり、このヴァルプルギスの夜会は、成り立たなくなるのですよ? そんなことより、ノアは何処なのですか?」
「そこの資料にあるが、小娘は以前とはまるで別人だ。勇者スキルを失くし、どのようにして、それだけの力を手に入れたかは知らんが…ヴァルプルギスの夜会と同等の力を持っておる。だが、何故か復讐とかは考えておらぬようだ。レーヴェンヒェルムよ、接触は許可できぬぞ、今度は契約呪術にて、しっかりと守ってもらうことにするからの」