第16話
「あの…ここで買った白角兎の調子がおかしいのだが…」
朝一番にやってきた男性は、弱りきった白角兎を大事そうに胸に抱えて訴えかけてきた。
白角兎? 確かに数日前、元気ない白角兎を厩舎で見てけど、その子はここにいるし…。元気だし…。
「あの…大変失礼ですが、いつ購入された白角兎でしょうか?」
「いつって言われてもなぁ…。確か、君じゃない女性から購入したんだけど…」
ハッとなり、帳簿を開く。厩舎で白角兎が元気なかったのは裁判所に呼び出された日、帳簿に記載された白角兎が売られたのも同日…。
「しょ、少々お待ちください!!」と慌ててマーシャルさんを呼び、事情を説明する。
「す、すいませんでした。白角兎の調子が悪かったのに報告できませんでした」
「まぁ、裁判所に呼び出されていたからね。それに白角兎の調子が悪いのを見抜けず売ってしまったのは私さ。ノアが気にすることはじゃない」
「でも、別の白角兎が翌朝にいたのは?」
「あぁ。たまたま市場の取引先からね。白角兎を誤発注して大量入庫しちゃったから、一匹でも良いから買ってくれと言われてね。白角兎は人気があるから、一匹買っておいたのが、これまた偶然その日に来たのさ」
「それで、ノインさんの白角兎だけど…。恐らくクランダル病だね。元気な時とぐったりした時の差が激しくて、日に日にぐったりしている時間のほうが長くなって…そのうち衰弱死してしまう不治の病なんだよ」
「そ、そうなんだ。元気なときは元気なんだよ!」
「病気を見抜けなくて売ってしまったのは店の落ち度だ。ノインさんの購入動機は攻撃力の増強だったね。今店で一番高価なのは、白姫狐だ。差額は迷惑料だ。どうだい? 白姫狐で勘弁してくれないか?」
「いや…」
「駄目かい? 流石に…それ以上の保証はできかねるが…」
「いや、違うんだ!! 俺は…こいつが…。白角兎と冒険がしたいんだ。弱っていても、主人を守るため、こいつは…健気に、必死に戦ってくれた…。頼む、こいつを元気にしてくれ!! また一緒に冒険させてくれ!!」
「だが…クランダル病は不治の病だ…。それにここは販売の専門店。病気を治療する技術はないんだよ」
「マ、マーシャルさん。まだクランダル病と決まったわけじゃありません。店で預かっても良いですか? ノ、ノアに看病させてください」
「お黙り。お前さんに何が出来るんだい? 出来ないことをお客様と約束するもんじゃないよ」
そのとき、ノインさんの腕から、白角兎がジャンプして、ノアの胸元に飛びついてきた。
「白角兎が…」
「どうやら、。白角兎も最後の希望を君に託すと言っているみたいだ。結果は…どうあれ、君に頼めないかな?」
「ノインさん…」
こうして、ノアと白角兎による不治の病であるクランダル病との戦いが始まった。
まず最初に昼食を食べたノアは、「すいません。ちょっと商業ギルドに行ってきます!! 午後はちょっとだけ遅れるかも知れません」と言って屋敷を出た。
商業ギルドに入り、スキルブックの閲覧許可を申請する。いつものように、スキルブックを閲覧するための部屋に通される。監視官に挨拶をして、スキルブックを開いた。